スポーツの秋



まだ1つ目のテストをクリアしただけだというのに、場に何やら疲弊感が漂う。


「何?何が起きたんだ?」


つむじの辺りにできたたんこぶをさすりながら正気を取り戻したクラウドが不思議がっているようだが。
さすがのも教える余裕がないらしく長々と地面に突っ伏している。


「第一関門を無事に突破、おめでとう」


ピンポンパンポーンの間の抜けたチャイムの後に続くルーファウスの声。


「関門突破、て」


既に主旨が違う、とがつぶやく。
当然、相手に届くはずもない言葉は、周囲のソルジャーたちに同意と諦めをこめた笑いでもって受け止められた。


「第二関門へのゲートは開けておいた。次も諸君の力をあわせ頑張って乗り越えたまえ。以上」


せめてもの意趣返しのつもりだろうか。
高笑いが聞こえてきそうな楽しげな声に、がスピーカーめがけて小石を投げる。


「さて、と」


3分ほどの自主的な小休止の後、ゆっくりと体を起こして立ち上がる。
その動きにつられるようにして立ち上がったソルジャーたちに第二ゲートをくぐらせつつ、自身もゲートへと歩き出した。


「んで?次は何?」
「次は…」


第一演習場での教訓か。
第二演習場ではたちを筆頭に、後続の集団がばらつくことなく移動している。


「次はサバイバルゲームって書いてある」


種目を読み上げたは軽く眉をひそめ、それを聞いたソルジャーたちは辺りに注意を向け始める。
両脇を固める形で歩いていたザックスが天を仰ぎ、クラウドはがっくりとうつむいた。


「サバイバルゲームってことは」
「間違いなく今回も…」
「ろくなことにはならないでしょうね」


三人三様にため息をついて。


「とにかく、細心の注意を払いながら早めにここを抜けましょ!」


が小走りに駆け始めたとほぼ同時に鳴り響く、小さくついた鐘のような音。


「痛ったー!!」


地に落ちた加害者と、頭を抱えるを見つめる目線はどちらも五分。
すんでのところで難を逃れたザックスとクラウドは発生源を求めて空を見上げ、あんぐりと口を開ける。


「なによ、コレ!…って、どうしたの?」


音からしてさほど落下距離はなかっただろうとは察するが痛いものは痛いのだろう。
さすがに涙目になったが頭をさすりつつ、上空を眺める。


「うわー…」


張り巡らされたロープに結び付けられた、ある意味、悪意すら感じられる金だらいの数々にもはや言葉もない様子。
ざっと見たところ量は多いが、上手く避けさえすれば何とかなるといったところか。


「とにかく上手く避けながらがんばって」
「おう!」


ある程度の距離を保ちつつ、しばらくはソルジャーたちが右に左に器用に避けていたのだが。


ごわんごわんごわーん、ご、ご、ごーわーん。


上手く取れた間とタイミングに、なにやらメロディーらしき響きになる。


「もしかしなくても」
「ああ、タイミング見計らって落としてやがんな、絶対」
「さっき同情して損した!」


今頃きっと嬉々としてリモコン操作に励んでいるだろうリーブにが毒づく。


「ここで言ってても仕方がないよ!」
「そうね」


逼迫したクラウドの最もな意見に、は大きく頷いて先へと足を進める。
途中、まきびしや投石などいちいち数える気にもならないほどのブービートラップに見舞われつつも、前方に次へのゲートが視認できる草地まで辿りついた。


「さあ、もう一息よ」


士気を上げようと後ろを振り返った途端、視界に遮るものなく広がる演習場と。
一様にバンザイしたまま這いつくばるソルジャーたちの姿。


「どうしたの、みんな。大丈夫!?」
「あー…。ちょっとココ、足元見てみ?」


地面を心配げに見つめるの袖を引っ張って、しゃがみこんだザックスが草むらを指差す。
スネぐらいまで伸びた青々とした草をマジマジと眺めて、力なく頭を振った。


「…っとに、よくやるわね。あの連中は」


非常に原始的な、草と草を結んで転ばせようという意気込みが満ち満ちているトラップがそこかしこに点在している。


「あ、あっちには落とし穴があるみたいだ」


クラウドの声に指し示された方へと視線を向けると。
トラップから抜け起き上がり再度進み始めた数名が、胸の辺りまで地面にはまり込んでいる姿を確認する。


「も、いいわ…。あのくらいなら自力でなんとかするでしょ」
「え?あ、でも…」
「でも?」


なぜか言いよどむクラウドに怪訝な顔の
視線を追って左側、ザックスの方向へ視線を転じ初めて異常を察する。


「うおお」


完全に視界からザックスの姿が消える。
どうやら他とは深さがずいぶん違っているらしい。


「おおおー」


どんどん遠くなっていく声。


「おーー…」


どんどん、どんどん遠く小さくなっていく。


「って。一体、どのくらい深さがあるのよ!?」


とりあえず、真実は掘った本人か落ちた本人にしか分からない。

およそ10分後。
自力で驚異の現場復帰を果たしたザックスを迎え、一同は第三ゲートをくぐった。


残るテストは後ひとつ。
障害物ゲームのみ。


2005.09.28