「はあ!?」
午前9時50分。
突然発せられた頓狂なの声に、周囲の視線が集まる。
しかし、そんなことには構っているヒマはないらしく、向かい合わせに立つルーファウスの状況説明に難色を示しているようだ。
「秋季・抜き打ち身体能力テスト?なによソレ?」
「秋に実施される身体能力の抜き打ちテスト」
「そんなものは見ればわかります。そうじゃなくて」
フォローのつもりか、言うまでもないことを口走ったツォンには一瞥をくれて。
がっくりと落ちたツォンの肩がわびしい。
「今までここまで大々的な身体能力テストってやったことってあった?」
「よく見ろ」
ふん、と鼻で笑いながら指差された場所をの視線が追いかける。
「ちゃんと第一回ってかいてあるだろうが」
確かに。
ビラビラとした長い横断幕と看板には「第一回 秋季・抜き打ち身体能力テスト」とでかでかと書かれてある。
が。
「こんなの、誰がいつ作ったの?」
「昨日。リーブに作らせた」
「へ、へー…」
は取り巻きの中に佇むリーブの姿を視界に納めると、手足や服にはところどころペンキが塗りつき、目の下には見事なクマ。
(徹夜か、リーブさんかわいそうに…)
まさに他人事だと思ってのんきに同情の念を飛ばしていたとき、はたと表情をこわばらせ動きを止める。
「昨日、作らせたって。このテストを計画したのはいつ…?」
「昨日だ」
「どうしてそんな急に?」
「普段、私は多忙だ」
「そうね、知ってるわ」
あなたの予定をやりくりしているのはあたしだもの、とが続けるとルーファウスは鷹揚に頷いた。
「ソルジャーたちの視察も表面的にしかこなせない現状とセフィロス以外に際立って能力の秀でたものを育成できていないという事実」
流れるようなご高説に、気がつけば辺りはしんと静まり返っている。
その状況に気をよくしたわけでもあるまいが、ルーファウスの口は滑らかさを増した。
「ソルジャーの質の低下は治安の低下、神羅カンパニーの威信の低下を招きかねない。従って私はこの事態を打開すべく空いた時間を有効利用し活用するために今回のテストを計画・実行した」
おー!と盛り上がるソルジャーたちに片手を挙げて応えるルーファウス。
対して、ぐっと重い空気をまとったの様子に、ツォンたちが一斉に後退る。
「して、そのココロは?」
「退屈だったからな、暇つぶし」
腐っても冷徹怜悧な副社長。
普段なら決して失言などしなかったであろう。
しかし今、演説がきれいに決まって彼はノっていた。
その一瞬の隙を突いてこぼれ出た本音は、休息日作りに奔走していたの耳にするりと入り込む。
「つまりは『仕事が入った』んじゃなくて、自分で『仕事を入れた』んじゃない…」
来るぞ来るぞ!
レノはルードを盾に使い、ルードは逃げることもできず硬直したまま心の準備中。
ツォンとリーブはどこからともなく耳栓を取り出してそそくさと耳にあてがってい、のそばに佇んでいたはずのセフィロスは、ザックスの隣へ。
つまるところ、いつの間にかソルジャーの中に混じっていた。
ルーファウスとを取り巻く面々が、少なからずも身構えた直後。
「こんの…すっとこどっこいッ!!!」
文字通り、最大出力の『雷』が落ちた。
「…私を殺す気か!」
「ごめんごめん、今生きてるから結果オーライって事で。大体、あたしの苦労を無にした上に巻き込むからこうなったんでしょ」
思わず手加減なしにサンダガをぶちまけただったが、さすがに慌てて即リレイズを発動し事なきを得る。
運悪く余波を受けて、感電している者もいくらか見受けられるようだがそちらはその内回復するだろう。
「とにかく。後できっちり利子つけて休みはもらいますからね!」
「…やむを得まい」
よほどサンダガが効いたのか。
しぶしぶ同意したルーファウスに、満足げに大きくひとつ頷いて。
「じゃ、とっとと始めてとっとと終わらせましょう。あたしはなにをすればいいわけ?」
記録係?タイム測定?とがルーファウスに説明を求める傍ら、ソルジャーたちを相手にタークスが説明を始めている。
「選択肢は2つある」
「選択肢?」
「セフィロスやタークスたちと一緒にソルジャーを鍛える側に立つか。お前も力の制御を覚えるためにソルジャーたちとテストを受ける側に立つか」
何故テストに『鍛える』という単語が出るのかを考えるとセフィロス側に立つのも気がとがめられるし、かといってその逆の立場になりたいとも思わないらしく。
「どちら側に立っても精神的苦痛が伴いそうなのでできればその二択はやめてほしいかなーと」
「ふむ、そうだな。まあいいだろう」
「え?いいの?」
「ああ。では、お前にはソルジャーの先導を担当してもらう」
「先導?」
「第一演習場から第三演習場までテスト手順に沿ったコースを用意してある。なに、連中が不用意な脱線やショートカットをしないために動けばいい」
「はあ…」
あっさりと意向を汲まれたのはいいが、ついで課せされた任務にが疑問符を飛ばす。
「いいか、このコースを通って時間内に最終地点までたどり着くこと。制限時間は開始より3時間。途中、発生する種目はそこに書いてあるから自分で確認しろ」
「あたしはとにかくみんなをゴールまで導けばいいのね?」
「ああ、途中の判断はお前に任せる」
含んだ物言いにルーファウスを見上げるが、それ以上の説明をする気はまったくないらしくリーブにゲーム開始の合図を送っている。
「…すっごい不安…」
予定していた時刻より後れること約30分。
限りなく開催主旨の不透明な『秋季・抜き打ち身体能力テスト』開始の空砲が高らかに鳴らされたのだった。
2005.09.26