スポーツの秋



澄んだ空気に突き抜けるような青空、と、絵に描いたようなさわやかな秋晴れの下。
貴重な休日の朝の惰眠を打ち砕く招集にしぶしぶ応じ出勤したの眼前には。
芋の子を洗うがごとく立ち並ぶソルジャーとその予備軍たちの姿があった。


「遅かったな、と」


こんな中、目ざとくを見つけたレノが軽く手を上げ距離を縮める。


「これでもがんばって早く来たつもりなんだけどね…」


挨拶を返して、がげんなりとした表情を浮かべた。

思い起こせば二時間前。
それは一本の電話によって始まった───。




「…………………はい…」


呼び出しては切れ、切れては呼び出してを幾度となく繰り返す携帯を無視しきれずに、は通話ボタンを押す。


「私だ」
「…どーなーたー…?」
「…お前は上司の声も忘れたのか?」
「………」
「寝るな」


言葉どおり。
寝具に包まって再び寝息を立て始めたにルーファウスがとりあえずは制止を試みるが、効果が確認されたのはきっかり10分が経過した頃。
しかし、慣れたことなのか。
動じることなく携帯を耳にあてがったまま再開していた仕事を、から生じるもぞもぞという衣擦れの音を聞きつけて中断する。


「…ただいま留守にしております。ピーという発信音のあと…」
、いい加減起きろ。それと、居留守を使うには無理がありすぎる」
「そんなこと言ったって、あたし今日休み…」
「私が許可したのだから、そんなことは先刻承知だ」
「だったら邪魔しないで。もうちょっと寝かせてよ。用件は昼以降聞いてあげ…」
「ダメだ。今じゃないと間に合わない」
「〜〜〜この分からず屋のクソ副社長!」


話の腰を折られ続けて憮然としたが、タオルケットを頭からかぶったまま勢いよく半身を起こす。


「わかったわよ、聞いてあげるからホラさっさと言って。10秒で!ハイ!」
「仕事…」


プチ、ツーツーツー。


「さ、寝よ寝よ」


の特技は枕に頭をつけたら3秒で熟睡できること。
しかも、ひんやりと心地よい外気が辺りに充満しているならなおさらのこと。
その証拠に今だって、3、2、1、で。


ピロロロロ、ピロロロロ。


3、2、1、で…。


ピロロロロ、ピロロロロ。


「………」


ピロロロロ、ピロロロロ、ピロロロロ、ピロロロロ、ピロロロロロロロ。


「なんなのよ、もう!」
「話の途中で切るからだ」
「当たり前でしょ、あたしは今日休みだっての」
「しかし急に仕事が入ったのだから仕方あるまい?」
「どうぞ代役立ててくださいませ」
「もちろん休日手当てもちゃんと支給しよう」
「あなたみたいに仕事に命かけてないからノーサンキューでございます」


どんなに憤ってみせても、受話器越しでは伝達能力に限界がある。
当然のことながらルーファウスはペースを崩すことなく淡々と話を続ける。


「とにかく、いいな。10時に第一演習場前まで来い。」
「ちょ、ちょっと!」
「時間厳守だ。遅れるなよ」


一方的に予定を組まれて電話を切られたが5分ほど躍起になってリダイヤルするが反応ナシ。


呆然とベッドの上に座り込んでいるわけにもいかず。
重い気分のまま出勤の準備を始めて現在に至る。




「あそこで出勤するって選択肢、選んじゃったのがそもそもの間違いよね」
「お前、今日休みだったのか?」
「そ。だけど副社長に叩き起こされてさ」
「ま、ご愁傷様だな、と」
「他人事だと思って」


おどけたように合掌するレノを軽く小突きながら、は小さく笑う。


「来ちゃった以上しょうがないんだけどさ。一体なにするのか、レノは知ってる?」
「ん?あー…うん。あっちに副社長がいたから、直接聞いたほうがいいぞ、と」
「?そう?」
「ああ」
「わかった、じゃあちょっと聞いてくる」


歯切れ悪く視線を泳がせる様子を不思議そうに見やったは、特に深く追求するでもなく素直に頷いてソルジャーたちとは少し離れた場所に位置する集団へと向かう。


「…今日は、荒れそうだぞ、と」


の後姿を見送りながら、レノはポツリと呟くのだった。


2005.09.25