驚きのち笑顔



夢を見た。
あたたかいけれども少し切ない、そんな夢。
別にそれは珍しいことじゃない。
あの日から、いつだってくり返し。
楽しいことも、つらいことも。
何度でも、くり返し。


海洋艦ヴォークリンデからの信号を傍受したデュランダルが、無事にファウンデーションのポートへと入港し、搭乗時よりも若干増えた人影がファウンデーションへと降り立つ。
出迎えたガイナンとのあいさつを済ませた一行が、案内役を買って出たJrに連れられて居住エリアへと足を踏み入れた。


「ここがパークエリア。ま、見てのとおりここでは自由に散歩するなりリフレッシュするなり好きにしてくれていい」


ざっと説明を終えたJr.が次の場所へと皆を誘導しかけたとき。


「おっかえり〜。ずいぶん遅かったじゃない、Jr.」


ドコで道草食ってたのさ、と。
唐突に声をかけられて驚き半分に動向を見守る一行をよそに、名を呼ばれた当人は実に嬉しそうな表情を浮かべる。


だって人のこと言えねえだろ。ガイナンと一緒に出迎えにきてないと思ったら、こんなところでふらふらと道草くってやがって」
「あらやだ、ふらふらなんてしてないよ」
「んじゃなんだよ?」
「そこのベンチで昼寝してたの」
「もっと悪いだろ!」


なにかあったらどうすんだ、とブツブツぼやくJr.を適当にあしらったがようやく一行へ視線を向ける。


「ケイオスくんもおかえりー」
「ただいま。
「ね、もしかしてこの人たちがヴォークリンデの生存者?」
「そうだよ」


の角度からはほとんどがジギーに隠れて確認できていないようで、あちらこちらへと覗き込むのに苦戦しているようだ。
くすり、と笑いをかみ殺したケイオスがジギーの腕をそっと引っ張る。
一歩後ろに下がってもらうことでクリアな視界を手に入れたは、興味津々な表情を隠そうともせず。


「ありがとケイオスくん。あ、やっぱり。ヴェクターの制服…」
「…、なの?」


ジギー、モモ、と近い順番に紹介を受けあいさつを交わした後。
ヴェクターの制服に目をとめたと同時に起こった、確認というよりも確信の色が濃く含まれたような驚いた声。


「え?」


覗き込んだままの体勢で固まると。
覗き込まれた形で視線を合わせたまま、同じく固まっているシオン。

重ねた月日に変えられたものがあったとしても、決して消えない郷里への想い。
次々とフラッシュバックする記憶。
今はもう、足を踏み入れることが許されないかの地で得た、たくさんの楽しい思い出。


「…シオン…?」


まさか、といった面持ちでがつぶやくと。
シオンの表情がパッと明るくなった。


「やっぱりそうなんだ!」


そばにいたアレンを押しのけてへと飛びつく。
あーれー…などといわれなき被害を受けたはずのアレンはごく自然に放置されたまま、周囲の視線は女性二人へと注がれた。


「生きていたんだね、よかった…」
「もう!それはこっちのセリフ。センターに所在登録していてくれれば、の居場所、兄さんがすぐに探し出せたのに!」
「うん、ゴメンね」


あの狂乱の中。
暗闇へと消えていった後姿を、つい昨日のことのように思い出せる。
ついていって一緒に探すことも、帰ってくるのを待つこともできなかった苦い思い出。
送り出した後、一分一秒ごとにつのる孤独感と喪失感。


「登録して連絡が来なかったら、って思って…怖くてさ」


抱きついて離れないシオンの頭を同様に強く抱きしめて、優しくなでるの顔がかすかに曇る。


…」
「嬉しいよ、また会えて」
「うん」
「ここにはしばらくいられるの?」


話の矛先を自分へと向けられたJr.は大きく頭を縦にふった。


「実際のところどうなるかはわからないけどな。少なくともエルザの修理が終わるまではここにいてもらう予定」
「そっか」


久しぶりに見た昔の夢は。
もう見納めかもしれないと、はひとり微笑んだ。