紅葉狩り



寒さが身を切るこの季節。
山は鮮やかな緋色に染まる。


「見て、トッシュ兄!」


ふわりと鼻先をかすめて落ちてきた葉っぱはひらりひらりと不規則な軌道を描いて緩やかに舞い落ち、両の手で掬うように待ちかまえていたの手の中に収まる。


「おう、いい時期に来たみたいだな」
「だね」


華やいだ声に導かれるように覗き込んだトッシュは、自身も手を伸ばしてまだ高い位置にある葉を器用に掴み取った。

虫が食った様子のないそれは、見るからに綺麗な代物で。
ほれ、と手渡されて受け取ったは嬉しそうに手の内でくるくると踊らせている。


「ね、もっといっぱい取ろうよ」
「ああ?そんなにいらねえだろ?」


燃え立つような赤や黄色の饗宴に、旅の目的を忘れしばしの休息を得たのか。

子供が遊びに興じるような誘いかけに相好を崩しながらもトッシュの声には若干の窘めと疑念が混じり、対しての顔には不思議そうな表情が宿る。


「どうして?」
「どうしてってお前…そりゃあ、たくさん取ったところで結局は捨てるしかねえだろ?」
「そんなことないよ」


疑問に疑問で返す不毛なやり取りは、平行線をたどる前に収束に向かうようだ。
もはや疑念しか宿さないトッシュを他所に、目線の高さまで葉を持ち上げたはゆらゆらと軽く揺らしながらこともなげに口を開いた。


「衣つけて天ぷらにするの」
「…食うのかよ…」


至極まじめくさった表情に冗談の色はない。
彼女の中に本気を読み取ったトッシュはがっくりと肩を落とし、結局は望むとおりに葉っぱを集めているであろう自分の姿を慮って大きく天を振り仰ぐ。


自然が織りなす風雅さは、まずは食ありきなの精神にほんの少しばかり敵わなかったようだ。