「…っくしゅ…」


夜の静寂に、小さなくしゃみが響く。


『暑いー』
、うるさい』
『暑いー』
『いい加減にしろ。聞いているこっちまで暑くなってくる』
『セフィロスの鬼!冷血!』
『あー、もういい。電気消すぞ』


気分的なものと体感的なもの。
苛立つ理由が運悪く重なった、とある日。


『ご勝手にどうぞ!あたし、客室で寝るから』
『何?』


埒のない会話を行動に変え、唐突にが寝室を別に定めた。


「…?」


そう遠くない過去の映像と共に深い眠りへと誘われかけていた意識がふと現実へ引き戻され、セフィロスは薄く目を開く。

背中に感じる自分以外の人の気配。
規則正しく続く呼吸と、背中と寝具の隙間を埋めるようにぴったりとくっついてくる温もりは、何者かと訝しむまでもなく相手を特定し得るものだったらしい。


「頃合い、か」


随分と冷え込んできたからな、と。
体を半回転させたセフィロスは、寒そうに身を縮こめて眠るを抱き込み静かに目を閉じた。

彼女がここへ戻るに至った理由の半分を占めると思しき要因をすぐに消えゆく苦笑に変えて、どうやらもう半分は白黒つけずうやむやのままにするつもりらしい。


そして。
夜の静寂に、二つの寝息が戻った。