おくりもの



道すがら手折った淡い紫色の花。

それは特に珍しい物ではなく、山のあちこちに群生しているのが見られるようなそんな代物。
手土産というわけではないが持って行けば喜んでくれるだろうか、という実に行き当たりばったりな行動だったのだが。


「いらっしゃい、ギンコ」
「よお」
「あれ、どうしたの?それ」
「ん?ああ、これな…」


の家にたどり着いて挨拶を交わす頃には、すっかり茎がしなってくたくたになってしまっていた物を、果たして渡したものかそれとも無かったことにするべきか。
密かに悩んでいる最中に目ざとく見つけられてしまっては今更無かったことにするわけにもいかず。


にと思って摘んではみたんだが、この通り萎れちまってな」


興味津々に覗き込んでくる彼女に、もういらないだろ、と捨てかけた矢先に慌てたように手を掴まれ制された。


「ねえ、もらってもいい?」
「そりゃもちろん構わんが」
「ありがとう」


自分の手からの手へ。
お世辞にも上等とは言えない花を、それでも嬉しそうに受け取った彼女はにっこりと微笑む。


「悪いな。それじゃあどうしようもねえだろ」
「そんなことないよ」


くるくる、くるくる。

楽しげな彼女の手の内で軽やかに踊る紫に逆に気を遣わせてしまったんじゃないか、と。
何だか少し申し訳ない気持ちになって告げた詫びの言葉は、至極不思議そうな表情のまま即座に否定され。


「ほら、ね!」


そっと差し込まれた花は、あっという間にの耳元を彩る可憐な花簪へと姿を変えた。


「ああ、綺麗だな」


花と、何よりもその身に飾ってみせた彼女自身へ。

赤らんだ頬とはにかんだような笑顔に、偽るところなく送った賛辞の言葉は過たず受け取られ且つ、ささやかな贈り物はまんざら捨てたもんでもなかったと思えた一幕となった。