抱きしめる



一足先に帰り着いていたが扉を開ける音に気づいて玄関へと走り寄った矢先の出来事。


「うわ」


おかえりなさい、と言うよりも早く彼女の口から訝しむ主旨の言葉が放たれた原因はもちろん、つい今し方帰り着いた人物にあるようで。


「ちょっと…どうしたの?」


呆れ混じりの心配げな視線の先には、それはそれは見事なセフィロスの仏頂面があった。

普段より荒めな足音がフローリングを蹴りつけるように踏みしめてリビングへと向かう。


「…どうもしない」
「任務でミスった?」
「俺が?」
「具合悪いとか?」
「いや」
「そ」


流れに乗って出た問いかけは発せられる雰囲気に良くそぐったつっけんどんな調子で短く返され、窓の向こうを見据えた目はこちらを見ようともしない。
が、そのことに対して特に反感を覚えることはなかったらしい。
一つ、鷹揚に頷いたは受け取られるあてのない微笑みを送る。

片やセフィロスはと言うと、矢継ぎ早に繰り出される質問を予測していたのだろう。
無言のまま気配だけを寄こす相手に、不思議そうな間を持って少し身じろいだ。


「…何があったか、聞かないのか?」
「聞いて欲しいって言うなら聞くけど」


一対の足が動きを見せて、歩み寄り、距離が縮まる。


「セフィロスが何でもないって言うんなら、今はそれでいいや」
「そうか」
「うん…あ、でも」


すぐに行き止まり額をセフィロスの背中に押しつけるようにくっつけると、するりと手を前に回し抱きしめた。


「いつでも頼ってくれていいから。いつでも背中、貸してあげる」


言葉と共にぎゅうと強められたの両の腕は、包み込もうという意思の表れか。


「ありがたい申し出だが。今背中を貸しているのは俺のようだが?」
「違うよ、あたしが支えてあげてるの」
「何ともお前にばかり分のある言い草だな」


曰く、支えるために回された手を覆い隠すように自身の手を静かに重ね、いつの間にか穏やかな物へと変わっていた表情のままセフィロスは瞑目する。

後はただ、悠然と時の流れるままに。