悪夢



何か特別な日でもなければ、特に気合を入れて作ったわけでもない、普段となんら変わりのない食事時。


「旨いな」
「………は?」
「旨い、と言っただけだが?」
「あ、そ…そう?」


耳慣れない単語に困惑、疑念、心配と。
おおむね負の要素を含んだ百面相を披露したは、至極真面目な面持ちのセフィロスの復唱が聞き間違いではなかったものの腑に落ちない内容だったのか。
微笑むというには些かおこがましい、出来損ないの半笑いを浮かべて頷く。


「えっと…じゃあまた今度、これ作ってあげるね」
「ああ」


褒められて嬉しいということよりも、心配の方が先に立ってしまったようで。
食事を再開したセフィロスの様子を窺いながら同じく食事を続けてはみたものの、特に引っかかる所はなかったらしい。


「ごちそうさま」


首をひねりつつも深く考えても仕方がないと諦めたのか。
いつも通り挨拶もそこそこに、空いた皿を回収しようと立ち上がりかけたは、横合いから入った制止の手に今度は眉を顰めた。


「たまには俺がやろうか」
「…いいよ、気にしないで」
「遠慮するな」
「してないしてない全然、これっぽっちも!だからあなたは座ってて、ね?」


ありがとう、嬉しい等々。
持て得る限りの感謝の言葉を捲くし立ててセフィロスの言葉を遮って初めて、何故か異常なまでに速くなっている自身の鼓動に気づいたようだ。
変なのはあたし?などと、釈然としない気分を少しでもすっきりさせようと大きく深呼吸をしたところで。


「…夢…」


目が覚めた、らしい。


「大丈夫か?」


無意識のうちに荒らげていた呼吸を落ち着かせたが、じっとりと汗ばんだ額にひんやりとした手の感触を得て視線を転じれば、少し心配そうに覗き込むセフィロスの姿が映る。


「大丈夫だけど大丈夫じゃないかも」
「何…?」
「大丈夫じゃなさそうだから、食事の後片付けはセフィロスがやってくれる?」
「…お前のそれが仮病でも騙りでもないならな」
「ああよかった、セフィロスだ」
「何なんだ、一体」


なりにとってみた確認が意味するところなど、もちろん当人以外に伝わることはなく。
念のためにある程度までは追求してみるものの結局たいした成果を得られることなく、呆れたセフィロスがそのまま放置するといういつものルートを辿るようだ。


「だからー。やっぱりあっちよりこっちの方がいいな、ってこと」
「薬を持ってきてやる」
「なんでさ。別にどこも悪くないよ?」
「俄かには信じ難いんでな」
「信じなさいよ、そこはすっきりと」
「お前が人の忠告を素直に聞き入れるようになったら信じてやってもいいが」
「…このソファで寝るの、気持ちいいんだよね」
「話にならん」


お世辞にも良いとは言いがたい夢を見る原因になったのは、いつだったか。
付き合うならどんな人…云々の同僚としていた他愛もない話のせいか。
それとも以前にうっかり転げ落ちて以降、セフィロスから禁じられていたはずのソファでの転寝のせいか。
真偽のほどは定かではないようだが。

これに懲りたが、少しはソファでの転寝を控えるようになる。


かもしれない。