電話の効能



コール一回、鳴り終えるか終えないかのタイミングでとられた電話。
レスポンスの早さに思わず笑みを浮かべたセフィロスの耳に届いたのは、嬉しそうな様子を隠そうともしない聞き馴染んだ声。


「…いや。特に用事はないが」


どうしたのと問われて一瞬、その理由を模索したかのような沈黙を持ったことが、どうやらいたくの心に触れたらしい。


「笑うな」
『ごめん』
「…お前な」
『だって、なんかセフィロスが困った感じだったんだもん』
「……」
『ごめんてば』


電話口でくすくすと漏れ続ける笑いを止めようとすればするほど火に油を注いでしまっているような状況に、ひとまず口を閉ざすことを決めたらしいセフィロスの様子に気づいたのか。


『そっちではどう?』
「別に。何も変わったことはないな」


打って変わってトーンを落ち着いたものへと戻したは、声音と同様に自然と話の内容も気遣うものへと変える。


『怪我したり体調崩したりとかはしてない?』
「お前こそどうなんだ」
『あたし?』
「ああ」
『もしかして、それでかけてきてくれたの?』
「…まあ何となく、な」
『なにそれ。…でも、ありがと。大丈夫だよ』


姿は見えなくとも、がこの上もなく目を丸くしているであろう様子は容易に脳裏に思い描けたのだろう。
視線の先で忙しなく働いているソルジャーたちの姿を追い払うように瞼を閉じたセフィロスは、喉の奥で相槌とも笑いともつかない声を漏らす。


『こっちは全然忙しくないし。体壊すようなことはなにもしてないからさ』
「そうか」
『そうよ。それを言うならセフィロスの方がよっぽど大変なんだから、くれぐれも体には気をつけてよ?』
「ああ、分かっている」


が、その努力もむなしく。


『何かあった?』
「みたいだな」
『残念』


受話器越しの耳にさえはっきりと聞こえるほどの応援を要請する誰かの大声に、どちらともなく苦笑が滲み過つ余地もなくタイムリミットを知る。


『だけど、いつまでもこうしてちゃヤバイよね』
「あ?おい…」
『じゃ、お仕事。がんばってね』


のんびりとした空気は一変して慌しいものへと変わり、挨拶もそこそこに通話が切れた携帯を心持ち恨めしげに眺めたセフィロスは静かに立ち上がり。


「さっさと終わらせるか」


剣呑な響きとともに正宗をその手に渦中へと向かうのだった。






その後の顛末として、一部始終を窺い知る者の言によれば。
これまでに例を見ないほどの驚くべき速さでターゲットの排除に成功したセフィロスの手には、正宗ではなく、いつの間にか携帯が握り直されていたとか。