嫌い



最初は嫌いだった。


例えば尊大な言い草とか。
例えば自信に満ち満ちた態度とか。


「…何をしている」
「別に」


たまたまレストルームで鉢合わせたという状況下。
二人掛けのテーブル席にごく自然に納まったまではよかったのだが、どうやらの方が心ここにあらずのようだ。
席についてからこちら、頬杖をついてセフィロスの顔を凝視したまま微動だにしない。


「俺の顔に何かついているのか?」
「目、鼻、口」
「馬鹿だろう、お前」
「失礼な」


例えば。
威圧感すら覚えるほどの容姿、とか。





少し焦れたような、イラついたような声を認識すると同時に腕に強い拘束を感じて、がふと我に返ったように目を瞬かせ。


「なに?」
「それはさっきから俺が聞いていることだろうが」


それらの要素は自分の好みとは対極に位置していたはずなのに、と。
埒のない考えをめぐらせている間に不機嫌さを表情に色濃く滲ませ始めたセフィロスを眺め、空いた方の手を振り機嫌をとるように笑顔を送る。


「ちょっとね、さっき昔の話しててさ」
「昔?」
「そ。で、色々思い出して考えてたわけ」
「何を」


『嫌い』と感じるということは、それだけ相手に対して無関心ではいられないということ。

心から受け入れがたい間柄であるか。
もしくは、意思をはるかに凌駕する力で惹き付けられ、認めたくない気持ちが正反対の感情で自分を偽っているか。


「なーんで自分の意見を全否定する方向に突っ走っちゃったかなあ、とか?」
「…話が見えん」
「これ以上は教えられませーん…って」


悔しいことに後者だったんだよねえ、と声にならない呟きと苦笑をかみ殺しつつ、外しかけていた視線をセフィロスに戻したがピクリと眉尻を跳ね上げる。

手首を掴んでいた手にはいつの間にか携帯が握られ、指先がしきりに動いているところを見るとメールを打っているのだろう。
おおよそ話を聞いているとはいえない姿勢に、むっとした面持ちでがテーブルを一つ叩く。


「ねえ、ちゃんと聞いてるの?」
「まともに説明する気がないような話に付き合う暇はない」
「あなたが絡んできたんじゃない」
「お前が出し惜しみしているんだろうが」
「………やっぱ、大っ嫌いってことでよろしく」
「だから、何の話だ」


心にもない台詞に、憮然となった双方が俄かにピリピリとした空気を身に纏いにらみ合う。

言葉が有する多面的な意味合いの、正しい位置づけなどは到底定かにできるようなものではないが。
ささやか且つ不毛な喧嘩が勃発するのは、まず、時間の問題のようだ。