「わあ…。どうしたの?これ」


テーブルの上。
無造作に放り置かれた花束に、部屋に入ってきたが感嘆の声をあげた。

とりどりの色でまとめられた花々はかなりのボリュームでその存在を主張し、あるだけで部屋の印象を明るいものへと変えているかのようだ。


「知らん」
「はあ?」
「任務先で地元の人間に渡された」
「あ、そうなんだ」


だが、持ち込んだはずの当の本人は渦中のものにまるで興味がないらしい。
ただ状況を簡潔に述べただけな素っ気無い答えに曖昧な返事と一瞥を送ったは、次いで、そっと花束を抱え上げた。
何故か肩を落とし、心持ち残念そうにも見える彼女に、それまで淡々としていたセフィロスの顔にも怪訝な色が宿る。


「…何か、不満か?」
「え?ううん、別になにも?」
「何だ」
「いや、なにって言われても…」
「だから、何だ」
「…どうして深くつっこんでくるかなあ…」


よもや、自分の些細な反応に何らかの問いが返ってくるなどとは思っていなかったのだろう。
驚いたように目を見開きぱっと笑顔を見せたは、ややあって、少しだけばつが悪そうに抱えあげた花でその表情を隠して見せた。


「珍しくセフィロスがお土産に持ってきてくれたのかなーなんて早とちりして、ちょっとがっかりしちゃっただけ」
「……」
「ね、大したことなかったでしょ?」


渋々と明かした理由に、最初から返事を必要とはしていなかったようで。

花瓶かそれに類する入れ物でも取りに行こうというのだろう。
鼻歌交じりに部屋の外へと出て行きかけていたの背に、心なしか抑えられたぶっきらぼうなセフィロスの声が届く。


「え?」


反射的に振り向いたの視線を避けるためだろうか。
窓の外を眺めたまま、今は視線を合わせる気も顔を向ける気もないようだ。


『…その内にな』


未だ音さえも耳に残るその台詞を、脳裏に繰り返したは。


「色々、なんでも言ってみるものねー」


楽しそうに微笑んで、今度こそ扉の向こうへと姿を消すのだった。