「なんで降るかなあ」
そぼ降る雨の下、天気に見合って人出もないせいか。
ううう、と、くぐもった唸り声を憚ることなく洩らしたは、差した傘をご利益が得られないほどに傾け、深く垂れ込めた雲を恨めしそうに眺めている。
「ガンつけたって、天気が良くはならないと思うよ」
「そうだけど…気持ちの問題」
「そんなもの?」
「そんなもの」
必要以上に刺激しないように、との配慮だろうか。
喉元まで出かかっていたため息を途中で抑え込んだアオイは、倣って見上げていた空からへと視線を戻した。
一方的なにらめっこを仕掛けているせいで、の顔には場所を厭わず雨粒がまとわりついている。
断続的に吹き付ける強い風に煽られて、水滴へと形を変えた雨粒が忙しなく髪をつたって落ち、落ちてはまたつたっていくを繰り返す。
そんな規則的とも見える流れに逆らって、ふと、髪に一枚の花びらが舞い落ちた。
「、見て」
「…なにー…?」
花びらがあったと思しき先を見やったアオイが、それまで浮かべていた困惑気味な表情の代わりにやわらかな微笑を浮かべる。
とんとんと軽く肩を叩かれ促されるままに、は目線を見上げる必要のない場所へと移す。
「…わあ」
雨に降られ続ける桜の木々。
その光景は、どうしたって変わる様子はなかったが。
光景を見守る側の気持ちは、いい方向へと転じることができたらしい。
「これはこれで面白いかもね」
「そう、だよね」
「じゃあ、機嫌は治ったんだ」
「う。…お手数をおかけしました」
「慣れてるからいいよ、別に」
「うむむ…」
まとう雰囲気を楽しげなものへと変え眺める二人の先で。
雨と風に煽られた淡い色の花びらは雨粒と共にはらりはらりと舞い落ち、灰色の暗い景色に桜色の華やかな雨模様を飽きることなく演出し続けた。
2007.04.03