背中



椅子に腰掛けるわけでもなく、ソファに沈み込むわけでもなく。
毛足の長いラグに直接座り込んだセフィロスは、先ほどから手元の紙面に視線を走らせているようだ。
人工の灯りをともすまでもなく、日の光が差し込み十分な明るさを保っているその場所は、加えて程よい暖かさをも提供しているらしい。
つまらなさそうに、ただつけてあるだけのテレビを一人で眺めていたは、やがて立ち上がることなくのそのそと動き始めたかと思うと間もなくセフィロスの傍までたどり着き、その動きを止めた。


「…何事だ」


今まで向けられていた背中の居心地は、彼女の期待通りだったのか。
広い背中へと、無言のまま横向きにもたれかかったは、摺り寄せるように頬をつけたまま静かに頭を横に振る。


「なんでもない。気にしないで」
「そうか」


ただただ惹きつけられた、そんな趣の理由なき行動。
強いて言えば、触れ合った場所から心地よい温かさと穏やかな鼓動が続く様を互いに享受しあう、そんなところだろうか。


「………確かに気にしないでとは言ったけどさ」


セフィロスもそれを是としたようで、再び中断する以前の動作へと戻りしばらくの間は他へ注意を向けそうにもない雰囲気を纏い。


「やっぱりちょっとぐらいは気にして欲しいんだけどなあ…」


背中を確保して眠りへと誘われつつも、やはりどこかつまらなさそうには小さく呟くのだった。