それは、いつも交わしているものと何ら変わりのない会話のはずだった。
「ニブルヘイムへ行くことになった」
「ニブルヘイム?なんでまた」
「任務以外、何がある?」
「…まあ、観光とか」
「俺はそこまで暇じゃない」
「言うと思った」
行ってくる、行ってらっしゃい。
ただそれだけで済むはずの話だったのに、何故か妙に引っかかりを覚えた。
「ねえ」
「何だ」
「たとえばさ」
虫の知らせ、とでも言うのだろうか。
説明のつかない不可思議な不安。
「ここであたしが『行かないで!』って泣いて頼んだら、あなた、行かないでいてくれる?」
「…新手の精神攻撃か?」
「真面目に言ってんの」
「とてもそうは思えんが」
言ってる自分ですら馬鹿馬鹿しいと思うのだ。
セフィロスが理解不能とばかりに頭を振るのを苦笑して見守るしかない。
でも、漠然とした不安を消し去って欲しくて質問を重ねる。
「ねえ、答えてよ」
「行かせたくない理由を、納得できる形で言えるのであればな」
「…だよね」
結局、引き留める言葉など見つかるはずもなく。
「じゃあさ」
「今度は何だ」
「ちゃんとここに帰ってきてくれる?」
「?」
「お願い、答えて」
「…戻るに決まっているだろう」
聞き分けなく自分に都合のいい答えだけを望むだだっ子じみた願いに、答えてくれたセフィロスをいつものように送り出した。
来るべき日、神羅カンパニーが重い口を開き彼が二度と戻らないことを告げるまで。
強く、ただひたすらに。
何事もなく自分の元へ帰ってくることを、願っていた。
2009.1.3