その日はハオの帰りがとても遅い日だった。
いつもと違ったのはそのぐらいで、後は何も変わらない。
態度も表情も物腰も、至って穏やかなものだった。
それなのに。
「…」
ハオが部屋に入った途端、何故かの顔がとても悲しいものになった。
「どうしてそこで、お前が泣くかな」
「…ごめん」
泣いている理由を問い質す必要のないハオには、彼女が泣いた本当の理由がまさに手に取るように分かるのだろう。
しょうがないなと呆れて見せた顔には、とても優しい色が混ざる。
「ごめん、ハオ」
「謝るぐらいなら泣きやめよ」
「…うん。でも、痛くて…」
始めから裏切られているようなものだと割り切れば割り切るほど、無意識の内に抱え込む闇はどんどん深くなる。
諦めているつもりでも、人である限り心の傷はどんどん広がっていく。
心など読めないはずのが時折見せる同調は、概してそう言うときに顕著に見られた。
「僕はこれぐらい、どうってことないんだよ」
肩を震わせなかなか顔を上げようとしないの耳元に、直接吹き込むようなささやきは果たして。
明るい表情を取り戻すきっかけとなり得たのか否か。
返事の変わりに頷きを返して必死に涙を収めようとする彼女を、ハオはただ、静かに抱きしめ続けていた。
2007.3.16