Happy Ending



「もうすぐだ」


暗く静けさに満ちたこの場所に、どこか陶然とした声が響き渡る。


「もうすぐ私は星とひとつになる」


独り言のように同じ台詞を繰り返すセフィロスは、ここからは見えないどこかを見据えているのだろうか。
虚空へと視線を固定したまま身じろぎ一つしない。


「待たせたな」


何かのついでのように呟かれた言葉は先ほどまでと口調を変えることなく、平坦に流れ出して足元にうずくまったままのの耳へと届いた。


「…え…?」
「お前とも、これでもう離れることはない」
「うん…」
「お前が私から離れて行くこともない」


虚空を見据えたままの両目は依然として怜悧に冴え渡り、執着を語れば語るほど不自然さは際立つ。


「…そう、だね」


実の感じ取れない言葉にはため息を飲み込んで悲しげに目を伏せた。


いくら言葉を尽くしても相手には届かず、かつては誰よりも近く通わせられていた心も見えず。
視線を絡めることなど最早、皆無に等しい。

記憶の断片を繋ぎ合せ補完させるためのパーツに過ぎないのか。
それともニブルヘイムの事件以後、どこかに残った人の心がを求めて止まないのか。
彼女に対して見せる執着が一体何なのか、当人にすら把握できていないことのように見えた。

それでも二人の距離は離れることなく、人跡未踏の地にて静かに時が過ぎるのを待つ。


「何故、悲しむ」


先ほどまでとは色合いの異なった声に、は、とは目を見開いた。


「何故、喜ばない」


動かした視線は程なく間近に対象物を捕らえ、留まる。
強いて言えば、理解に苦しむといった要素しか含まれていないセフィロスの表情をいくら探ったところで、情念めいたものが生まれることなく。
いたたまれないまま再び下を向きかけたの顔は顎を捉える手に遮られ、逆に上を向かされてしまう。


「お前も望んだはずだ」
「セフィロス…」
「私と共にあることを」
「そう。他の誰よりも…世界を敵に回してでも、あなたと一緒にいることをあたしは選んだ。だから」


目的を遂げたことで顎から離されかけた手に自分の手を重ね合わせ、そっと頬を摺り寄せた。


「だから、お願い…」


ひんやりと冷たい手は、確かに形を成している。


「ちゃんとあたしを見て。もっと傍にいて」
「おかしなことを言う。私はずっとここにいて、お前を見ているだろう?」


「…前みたいに、名前を呼んで」
「何を怯えている?」
「怯えてなんかない。ただ、セフィロスを遠くに感じてしまうのが嫌なだけ」
?」


抱きしめられるままにセフィロスの腕の中に納まったは、背中に手を回してしがみつく。


本当に自分は温もりを感じているのだろうか。
そもそも、自分はどこにいるのか。
ライフストリームが迸る地にて惹きつけられるままにそれを眺めていたはずの自分は今、どこに。


考えることを放棄したは与え続けられる呼びかけをBGMに、嘘でもいいから昔みたいにとの思いは伝えないまま、偽りの充足感にその身をゆだねる。






全てが終わり幕が下りるその時まで。