台風を思わせるような強い風が縦横無尽に吹き荒れた。
その風が一段落ついた後に運んできたのは春を忍ばせた暖かい空気ではなく、身も凍り付くような冷気とふわりとした大きな白い塊。
ひらりひらりと絶え間なく舞い落ちる雪片は一晩の内に一面の雪景色を作り出す。
「うわあ」
雨戸を開いて朝の外気を室内へと導いたは、歓声とも嘆息ともつかない吐息を漏らした。
「見て、真っ白」
「みたいだな」
比較的まだ早い時間帯のせいか。
人の足跡も獣の足跡すらもつかない場所は朝日を受けて眩しいほどに輝いている。
葉を落とした木々も、枯れたまま立ち並ぶ草花も。
この時ばかりは白銀の衣を纏って無彩色の華やかさを取り戻す。
まるで、示し合わせて季節外れの花を一気に咲かせたかのように。
心持ちはしゃいだ声に誘い出されるように縁側に立ったギンコは、疑念に突き動かされるままにしなる音を響かせた撓んだ木を覗き込む。
「…て。おわっ」
だがそれは、非常に間の悪い行動だったらしく。
重力に負けた雪の塊が、ドサリと些か重そうな音を立てて落ちていく一部始終を、身をもって知る羽目となったようだ。
制止する間もなく繰り広げられた一幕を目を丸くしたまま眺めていたが、色合いとしてはさして違和感のない形で頭に雪を載せ、げんなりと佇むギンコの姿に堪えきれず吹き出してしまうのは時間の問題で。
「ギンコも今、すごく花盛り」
「…嬉かねえなあ」
「褒めたのに」
「いやいやいや。額面通りに受け取れるわけねえだろ、そりゃ…」
結局。
季節にそぐった、しかしどこか微妙な風物詩を笑う声は、ギンコが盛大なくしゃみを披露するまでなかなか止らなかったとか。
2008.2.24