水面に映る顔を眺めるたびに思い出す。
「不思議だね」
既に幾度も出向いて時間を共有したの声を。
出会って間もない頃、好奇心の中にどこか陶然とした色をにじませた、明け透けな態度で覗き込む姿を。
「…気味が悪いか?」
面と向かって問われて、心情を吐露する者など滅多にいない。
我ながら意地の悪い質問だと自覚しつつも盗み見た先には。
「どうして?」
言葉の意味を理解できないとばかりにきょとんとしたの顔があった。
「俺のナリが気になるんだろ?」
「うーん…そうなの、かな?」
「なんだそりゃ」
重ねた言葉に響くものはないらしく。
難しい顔のまま首をかしげて考え込む。
「ナリと言えばナリなのかなあ?」
「俺に聞くなよ」
「眼、がね」
右と左で対にすらならない異質なモノをまじまじと眺めては微笑む姿に、若干の居心地の悪さを感じたとしても決して咎められることではないだろう。
不満の声が上がることを承知で、俺は目を閉じた。
「もう!どうして閉じるの?」
「…そんなのは俺の勝手だと思うがね…」
「そんなにきれいなのに閉じちゃうなんてもったいないよ」
「……はあ?」
蟲の声は聞けても、幻聴までも聞けるようになった覚えはないが。
あまりにも耳慣れない言葉に思わず眼を見開いてを見る。
「どういう基準でそうなるんだよ」
「え?だってホラ」
首元にかかった紐を手繰って着物の内から小袋を取り出すとその中身を手の上に転がす。
荒く削られた小指の先ほどの小さな石は光を受けて鈍く輝き、刻々と表情を変えた。
「これは翡翠、か?」
「そう」
陽にかざし見る俺に倣うような体勢のがこっくりと頷く。
「ね。これとギンコの眼、そっくりだと思わない?」
「…色はまあ似てるかもしれんが」
「色だけじゃないの。神秘的なところとか、深くて落ち着ける感じとか…」
「、わかったから。もう勘弁してくれ…」
結局。
妙に頑固に言い張るを止めることができずに、俺はどういう反応をしていたのだったか。
普段にない動揺を強いられてろくに覚えちゃあいないが。
の元へ、俺にしては足繁く通うようになったのはこれを機にしてのことだったかもしれない。
顎をつたって落ちた雫が像を乱し。
急速に意識が浮上して我に返る。
「そろそろまた、訪ねてみるか」
立ち上がり。
一つの場所を目指して。
2005.11.05