天気は上々。
澄んだ外気は冷気を多分に含んではいるものの、心地よさを感じられる風。
だが。
「さむーい」
袖をたくし上げ、冷たい洗濯物を竿へと干す作業を繰り返すにしてみれば、ちょっとの風でもたまったものではなかったらしく。
寒そうに時折身を縮めながらもその手は休めない。
「また急に冷え込んできたな」
特に何をするでもなく。
強いて言えばの観察でもしているかのように縁側に座るギンコも同じように身を縮めた。
「だね。でも、秋なんてそんなものでしょ」
「んあ?」
「涼しくなったなーって和んでたらあっという間に冬が来る」
「まあな。いろんなところ行ってると微妙に季節感なんてものは損ねるがな」
暑い時期に寒い地方へと赴けば暑さを忘れるし、逆もまたしかり、といったところか。
煙草を噛んだまま、そう言ってのけたギンコは両手をしきりにごしごしとこすり合わせて暖を取っている。
「ギンコ、家の中入ってたら?」
「んー…」
何故か曖昧な反応を返すギンコに。
「私ももうすぐ終わるから」
「じゃ、それ待つよ」
「なんでさ」
「別に」
はくすりと笑う。
「やせ我慢してたら風邪引いちゃうよ?」
「引かねえよ」
「どうだか」
再三の勧めにも腰を上げる様子を見せないギンコに、さっさと済ませたほうが早いと感じたのか。
は残りの洗濯物を手際よく干し始める。
「はい、これで終わり!」
終わりを告げた元気な声にようやく反応したギンコが、家の中ではなくの元へと歩み寄って。
すっかりかじかんでしまったの手に自分の手を重ね合わせた。
「ほら、こうすりゃぬくいだろ?」
「…うん」
待っている間、ずっとこすり合わせていた手の温もりは、冷え切っていたの手にじんわりと浸透する。
「あったかいね」
冷たい日の中にあっても、あたたかいひと時。
2005.10.22