手を繋いで



きっかけは、取るに足らないごく些細な意見の衝突。
気がつけばそれが、一触即発の気配を宿し。


「もういいわ。じゃあね、バイバイ」


あっさりと爆発を迎えた。


さして多くもない荷物を引っつかみ、靴音を荒く響かせは戸口へと向かう。
不機嫌さもあらわにむっすりと黙り込んでいたダンテは、何を言い返すこともなく彼女の行動を眺め微動だにしない。

互い違いの方向を目指し、そのまま全てが始めから何もなかったことになるのかと思われた瞬間。


歩く速さを変えることなくすれ違い、次いで、通り過ぎていきかけたの体がガクンと不自然に動きを止める。


「…っ…?」


痛み半分、疑問半分。

怪訝な顔を振り向かせ、現状把握に努めたの視界に映し出された、左手に未だ感じる違和感の元は。


「行かせると思うか?」
「…去る者を追うなんて、らしくないんじゃないの?」
「どれが俺らしいかなんて、俺が決めるさ」


手首をがっちりと掴み捉え続ける自分以外の大きな手。
振れども引けどもびくともしない状況に呆れた面持ちで見上げたを、取り澄ました表情にふてぶてしいまでの笑みを貼り付けたダンテが見下ろす。


「俺はこの手を離す気はねえぜ?」
「じゃあ、前言撤回する?」
「ああ、そりゃ無理な相談だ」
「だったら、あたしとあなたに残された選択肢はここで別れることだけよ」
「悪ぃな。それも俺の選択肢の中にゃねえんだよ」
「ほんっと、勝手な男よね」


もがけばもがくほどに強められる力は、拘束した手首に容赦ない痛みを与え続ける。
ひっそりと眉を顰め大きくため息を一つ吐き出したは、やがて諦めたように抵抗を止めた。


「とにかく、あたしの言い分を優先させて」


そうすれば考え直す、と。
睨み上げるように向けられた双眸を、探るようにマジマジと覗き込んでいたダンテは。


「強情だな」
「あなたに言われたかないわよ」
「オーケー、いいだろう」


大きく頷いて手の力を緩めると、反対の手でポケットの中を探り一枚のコインをはじき出す。


「ここは公平にコインで。…どうだ?」
「…いいけど」


痛いほどの締め付けはなくなったものの、外される様子のない手に釈然としない視線を向けたは、同じく釈然としない様子で同意を口にする。


「インチキは絶対、認めないからね」
「…へいへい」


早々に念を押され、肩をすくめたダンテの指先からコインが滑り落ち。
勝負の行方は偽る術を持たない、新しいコインだけが知ることとなった。






果たして、彼らが一体何に対し意見を食い違わせたのか。


「絶対、ターゲットの回収が先だからね」
「だからそれは、悪魔を一掃した後でもできるだろって言ってんだろ」
「嫌。それで宝が傷つきでもしたらどうするのよ」
「宝には違いねえだろうが」
「仕事の質を落とすなんて、もっての他!」
「知るか!俺はぱーっと派手に片付けたいだけだ」
「それこそ、回収した後でも全く問題ないじゃない」
「俺は細かいことをごちゃごちゃってのが面倒なんだよ」
「ほんっとーに、分からず屋なんだから!」
「あーもう。コイン、投げるぜ」


それは、至極些細な、本当に些細なことのようなので。
余り追求しない方が吉…なのかもしれない。