手を繋いで



「あたし、ナメてたかも…」
「何をだ」


無言のまま歩みを進めていたがポツリと呟けばごく短い返事が間を置かずして返され、うーん、と考え込むような唸り声を経て再び彼女が口を開くに至る。


「この時期この時間帯の温度」
「ああ」


冬と春の境目。
暖かくなったからと油断していると次の日には急激に冷え込んでしまうような微妙な季節。

多分に漏れずも油断してしまった内の一人だったようで、平然と歩き続けるセフィロスとは対照的に、これでもかというほどに身を縮こめては寒そうに大きく体を震わせている。


「そりゃ寒いだろう」
「だよね」
「寒いんじゃないかとわざわざ忠告してやったにもかかわらず春物のコートを着込んでたんじゃあな」
「………すっごいやな感じ」


賛同を得られたかと思いきや、思いも寄らない変化球を食らったは盛大に頬を膨らませた。


「しょうがないじゃない。ここしばらく暖かかったからこんなに冷え込むとは思わなかったんだもん」
「だったら、それこそしょうがないだろう。お前の判断ミスが今の状況を招いているんだ」
「うー…セフィロスの冷血!」
「何故そうなる」
「言ってること正論だけど、今言われるとちょっとムカつく」
「…話にならんな」


呆れたように首を振られた仕返しだろうか。
べーっと舌を突き出したは、膨れた面持ちのまま歩調を小走りへと変化させる。
しきりに手をこすり合わせ息を吐きかける姿に、わずかな間ではあったが置いていかれる形になったセフィロスは口元に淡く笑みを浮かべると、自身も歩くペースを上げた。



「なによ」


呼び止められて振り返ったの目が再び二人が並び立つ瞬間には大きく見開かれ、次いで引っ張られるように動かされる段になってようやく視線が手元へと落ちる。
そして、ポケットにしまいこまれていたはずの手が自分の手を包み込んでいるのを確認すると、小さく息を呑み渋面も忘れ黙り込んだ。

繋がれた箇所からじわりじわりと互いの体温が浸透していく。
暖かくも冷たくもあろうその熱はじきに、元々一つのものであったかのように同じ高さになって安定していくだろう。


「ね」


繋がれた手をぎゅっと握り締めたが、不意に伸び上がりセフィロスの耳元に囁きかける。


「何だ」
「セフィロスの手、冷たいよ」


未だ寒さに震えがちな声は、悪戯な内容を告げ最後は笑い声へと変わり。


「…悪かったな…」
「でも…」


どう切り返そうかと逡巡したセフィロスの語尾をさらうように次の言葉が覆い被せられ、合間に置かれた一呼吸で合った視線に、は嬉しそうに微笑みを浮かべる。


「やっぱりあったかいね」
「ふん」


もう一つ遅れて重ねられた手にセフィロスがほだされたのかどうかは知れないが。
に暖かさが戻った後も、しばらくの間はその手は離されることがなかったとか。