手を繋いで



通い慣れない道の途中。


つい先ほどまでは確かに肩を並べて歩いていたはずなのに、気がつけば二人の間に二、三歩分ほどの距離が生じ。


?」
「大丈夫大丈夫」


心配半分、疑問半分。
おおよそそんな表情を浮かべたギンコが振り返ると、は「気にしないで」と手を振り少しばかり照れたように笑う。


「…ならいいが」


納得はいかないが先を待っても状況の説明はないだろうと、彼女が追いつくのを待って再び並んで歩き出す。
が、いくらか歩み進めるとまた二人の距離が開く、ということをさらに二度ほど続けたところで、ギンコはとうとう考え込むように足を止めた。


「ギンコ、どうしたの?」
「んー」


まじまじと見つめられたは所在無げにそわそわと身じろぎを繰り返す。


「…よし」


ややあって、大きく一人頷いたギンコはおもむろに進行方向を指差して見せ、つられたようにも顔を向けるが特にこれとって注視するようなものは何もない。
ただただ真っ直ぐに続く道を眺めたまま、訝しげに首を傾げた。


「あっちが、なに?」
「あ、いや。あっちは別に関係ねえんだが」
「じゃあなんなの?」
「少しの間、俺の前を歩いてみてくんねーかなって」
「どうして?」
「ん、ちょっとな」


理由をただしたがるを半ば押すようにして進ませたギンコは、諦めて前をいく彼女の背を追いのんびりと動き出す。


じゃり、じゃり、と。
二人が歩を進めるたびに無数の小石が軋みこすれあい、砂利道特有の音を発した。

先ほどまでと違って、意識して離れて歩いているせいだろうか。
会話が途絶えがちになり、殊更大きく砂利の音が辺りに響く、そんな折だった。


「あぶね…!」


不意にぐらりとが体勢を崩し、慌ててギンコが手を差し出す。
すんでのところで支えられ、自身も安定を取り戻して転倒は免れたようだ。
ありがとうと微笑んで、ふう、と小さく息をついたの姿に、ギンコはようやく遅れがちだった理由を悟り、大きく肩を落としながら頭をかいた。


「砂利に足を取られてたんならそう言やいいのに」
「どうして?」
「どうしてって、危ねえだろ?」
「でも…」


打ち明けなかったことを責める口調に困惑を隠せないまま眉根に皺を寄せたはしばし言いよどむが、やがて、申し訳無げに選んだ言葉を口にのせた。


「言ったところでどうしようもない、…じゃない?」
「……」


いつ躓くか分からないしまだ転んでもいないし道はずっと砂利道だし、と続ける彼女に思わず頷きかけたギンコは釈然としない表情を浮かべ。


「…そうでもねえよ」
「え?」


憮然とした勢いに任せたのか、それともきちんと意図してのことなのか。


「これなら転ばんだろ」


解けない程度に強く握った手を数回揺らして見せる。


「そうだね」


成り行きを見守っていたが繋がれた手に頬を緩ませ、振り仰いだ先には嬉しげな笑みを贈った。






手を繋いで通う砂利道。
確かにの足元が覚束なくなることは目に見えて減り、たとえ躓いたとしてもよろける前に支えられ事なきを得るようになったようだったが。


「ただな、
「うん?」
「俺が躓いたときは多分、一蓮托生な」
「………お願いだから転ばないでね」
「…善処はする」


新しい危険の可能性も、起こり得るとか得ないとか。