ミッドガルを望む小高い丘に濛々と舞う砂塵。
「おーい」
バイクに煽られたそれは止まるところを知らないように見える。
「おーいってば。そこの金髪で無口でぶっちょー面のおにーさーん」
地を揺るがすほどのエンジン音にかき消され、正確に聞き取られることはないであろうと思われた声が1台のバイクを止めた。
急停止したタイヤからは一段と盛大な砂煙が舞い、呼び止めた方は思いも寄らぬ報復に小さく咳き込んでいる。
とは言え、場が静まるのに費やした時間はいかほどもなかったようで、徐々にクリアになっていくの恨めしげな表情と視線を受けたクラウドは心持ち身体を引いて薄く眉間にしわを寄せた。
「………どうしてあんたがここに?」
「それがさ、聞いてよ」
膝を抱えて座り込んだまま、聞くも涙語るも涙よ、と肩を竦める姿に軽くかがみながら先を促す。
「うちの社長様に」
「ルーファウスに?」
「ここでポイ捨てされちゃった」
「何でまた…」
うつむきながら話すのは、少なからず傷ついている証拠なのだろうか。
かける言葉もなく切り出したクラウドは、先に続く言葉を見つけられずに口ごもる。
そっと肩に置かれた手に反応して上げられたの顔に浮かぶのは、落胆でも消沈でもなく、多分に笑みを含んだ想定していたものとはまるで正反対の表情だった。
「…」
「うそうそ、ごめんね。信じた?」
「…全部嘘なのか?」
「ルーファウスに便乗させてもらったのは本当」
ひらひらと目の前で手を振られ、クラウドの口からため息が漏れる。
「終わるまで待っててくれるって言ってくれたんだけど、つき合わせるのも悪いしね」
忙しい人だから、と呟いて送った視線の先には、少しだけ盛られた土に突き刺さった大剣が長く太い影を落とし。
風に揺られそよぐ供えられたばかりの花は、ささやかながらも雰囲気を明るいものへと変えているようだ。
「誰かが通りかかるのを待ってたんだけど、これがまたなかなか」
「そこへ都合よく俺が通りかかったってわけか」
「そ。まさに鴨が葱しょって…」
穏やかに交わされる会話がどこをどう間違ってしまったのか。
ぬけぬけと告げられた言葉にクラウドはくるりと踵を返し。
「じゃ、俺はこれで」
「うわー、待って待って。冗談に決まってるでしょ!」
「…だといいけどな」
慌てたが立ち上がったのを合図に、バイクのエンジンをかけた。
「ほら、『人』の配達も仕事のうちだったり…しない?」
「そうだな」
クラウドの後ろ、空いたスペースに飛び乗るようにが座り込む。
「これも仕事の一環だとしたら、重量とか大きさなんかのサイズを聞いて料金を設定しないといけなくなるわけだけど」
「げ」
「どうする?…ああ、違うな。『客』だったか?」
明らかにからかっていると分かる口調で選択を迫られ憮然とするも、長続きするはずもなく。
「ここはひとつ、荷物じゃなくて友人扱いでよろしく」
「分かった」
大人しく手を前に回しながらはこっそりと舌を出す。
幸か不幸か。
負け惜しみから出た行動は相手に伝わらないまま、二つの人影を乗せて再び動き出したバイクの上、地上でするほどままならない会話はそれでも断続的に続けられ。
「ねえ、クラウド」
「うん?」
「報酬ってわけじゃないけど。お礼に晩ご飯でも一緒にどう?」
「悪くないな」
「ほんと!?じゃあ、交渉成立、ね」
何が残っていたかな、と俄かに声のトーンを上げて帰宅後のレシピを模索し始めたに、気づかれない程度の笑みを浮かべたクラウドはアクセルを全開させた。
2006.05.17