記憶のかけら



、だ」


星の危機から2年の月日が流れ。
壊滅的な打撃を受け廃墟と化したミッドガルも、少しずつではあるが都市としての機能を回復し始めた。
また、神羅カンパニーも例外ではなく。
復興を掲げて組織活動を続けている。

そんな折。


「ねえ、そうだろ?」


ミッドガルが一望できる丘で花を添えるに呼びかける声と、背後に人が立つ気配。
油断していたわけではないのに声をかけられるまで気づかなかったは慎重に振り返る。


「やっぱりそうだ!当たってるのにどうして返事してくれないのさ」


視界に入ってきたやたら懐っこいこの男は知らないはず、の人物。

ただ、全身を黒で覆い、銀の髪をなびかせるその姿に。
は懐かしさがこみ上げてくるのを禁じ得ない。


「…あたしはあなたのことを知らないから」
「でも、僕はのこと知ってるよ」
「誰に聞いたの?」
「誰にも。僕は始めからのこと『知って』るんだ」


間合いを取ったまま探るような目を向けるとは対照的に、男は嬉しそうな表情を崩さない。


「…どういうこと?」
「『あの人』の記憶は消えることなく僕たちの中に残っている」
「あの人?」
「しらばっくれないでよ。が分からないわけないだろ?」
「なにを…」


問いかけて、目を見張る。
オーバーラップするように見え隠れする、忘れもしない姿かたち。


「…セフィロス…?」
「違うよ、僕はカダージュ」


不満げに、でも仕方のないことと割り切っているかのような複雑な色をにじませカダージュが名乗る。


「彼の記憶を共有してるけど、僕は僕だ」
「そう…。じゃ、カダージュ?」


名前を呼ばれたことが嬉しかったのか。
すぐさま顔をあげて次の言葉を待つ態度には苦笑する。


「あなたは一体なんの用があってあたしの前に現れたの?」
「もちろん」
「もちろん?」
が欲しいから」
「………」


思わず絶句。


「道っ端で配ってるポケットティッシュじゃあるまいし。ハイどうぞってあげるわけにはいかないんだけど?」
「そうなの?」
「そうなの!」
「ふーん…」


顎に手をあてて、カダージュは神妙な面持ちでうなっている。


「じゃあ、どうしたらもらえるの?」
「あたしに聞くな、あたしに」


危険な、底知れない雰囲気を纏っているのは確か。
だが、ズレた会話を重ねるにつれ警戒に値する人物なのか否か、は図りかねて脱力する。


「そもそも、なんであたしが欲しいなんて思うのよ?」
「だって『あの人』の中には母さんと、それ以上にの記憶がいっぱいあるから」
「………」
「僕もそれが欲しい」


そうか、ポケットティッシュじゃなくおもちゃだったのか。
と、はため息混じりに内心つぶやいた。


「あなたがあたしに何を求めているかは知らないけど」


セフィロスの幻影を見せられたせいか、カダージュ自身の不思議な存在感のせいか。


「オーケー、わかった。遊んであげるよ」


必要以上に邪険にあしらう気にもなれずは笑顔を浮かべる。


「あたしの気を引けるかどうか。この先、試してみたら?」
「本当に?楽勝だよ、きっと!」
「なめんじゃないわよ、お子様」


不敵な笑みを交し合った直後。
はくるりと踵を返す。


「じゃ、あたし仕事があるから」
「え!?待ってよ、僕は!?」
「今忙しいから、また今度ね」
「ねえ!ちょっと待ってってば。僕もついていくからね!」


さっさとバイクにまたがりアクセルを吹かすに、カダージュがあたふたと後を追う。


どうやら前途は多難なご様子。