敬語



セフィロスと二言三言。
次いでアンジールと二言三言ほど言葉を交わした後のことだった。


「いい加減、やめたらどうだ」
「藪から棒になに?」


正真正銘、藪から棒と称するにふさわしい、自分へと向けられた脈絡のない言葉に、は不思議そうに首を傾げる。
声の発生元へと向き直ると、目に飛び込んできたのはお世辞にも普段通りとは言い難い不満げな表情。


「お前のその中途半端な敬語だか丁寧語だかの話だ」
「なんの話?あたしはいつだってきちんと丁寧語じゃない」


自分はセフィロスの気に障るようなことをしただろうか。
いやない、と。

瞬間的に胸中で自問自答を終えたらしいは、目を瞬かせ、じりりと半歩後ずさりながら反射的に答えを返し。


「………ですか」


不自然な沈黙の後、取って付けてしまった言葉に唐突に投げかけられた話の要旨を悟る。


「語るに落ちている状況をわざわざ体現してくれるとは、説明の手間が省けて実にありがたいな」
「うわー、やな感じ」


どこか勝ち誇ったように見下ろしてくるセフィロスを、苦虫を噛み潰したような顔では見返した。

自分の言葉遣いに難があったらしいと腑に落ちとは言え、それを素直に認めるのは業腹だったのか。
自身もいささかムッとした表情を浮かべると、語気も表情に即した強さへと変わる。


「初対面の印象、最悪だったし。しょうがないじゃないですか」
「最悪とはなんだ」
「じゃあ、ぜんっぜんいい印象なかったから」
「どっちも一緒だろう」
「えー。言い方が違うし」
「誰も言い草にケチなどつけてはいない。…まあ、わざとか」
「バレました?」


ニヤニヤと、面白そうに傍観しているアンジールの視線に気づいたのか。
売り言葉に買い言葉で加速しかけた口論がほぼ同時に収まって、片やふと目を逸らし、片やバツが悪そうにしながらも、だから、と再度口を開く。


「いい加減やめたらどうだと言ったんだ」
「…納得」


中途半端な使い分けをしていた張本人は自覚が薄かったようだったが、使われている方はどうにも釈然としなかったのだろう。
言葉に呼応して首を縦に振ったに落としどころを得たセフィロスもやっとスッキリ…。


「じゃーお言葉に甘えて、タメ口呼び捨て」
「…やけにあっさりと現金だな」
「あなたが中途半端がイヤって言ったんじゃない」
「ああ、確かに言った。が、俺は選択を間違えたのかもしれん」
「今さら遅いって」


出来たのか出来なかったのか。






ただひとつ確かなことは。
この日を境に、のセフィロスに対する言葉遣いがアンジールに対するものとは全く異なるものになったこと、ぐらいだろうか。