自宅のベッドの上。
常であれば誰に何を気兼ねするでもなく、心底リラックスできる、そんな場所。
のはずなのだが。
「うーん…」
枕に頭を預け仰向けに転がるは、何故か渋面のまま低いうなり声を上げ続けていた。
「どうしようかな」
目線の高さにまで合わせて上げた手に持っているのは携帯電話。
ピコピコと無意味にアドレス帳をめくり戻しつつ、難しい顔で画面を穴が空くほどに凝視しているのにはもちろん理由がある。
「どうやって教えてもらおう…」
それはどうやら、セフィロスの連絡先について、らしい。
アンジールとは行きがかり上、会ってその日のうちに電話番号を交換することが出来た。
しかしそれが一部マイナスに作用してしまっているようで、稀にセフィロスに用事があるときはついアンジールに言づてを頼んでしまう、と。
結果、本人に直接繋がる連絡先をなかなか聞き出せずにいる、というちょっとした悪循環に繋がっているようだ。
そんな現実的な要因に加えて。
「教えてって言っても、なんのために、とか言われそうでやだよねえ」
多少の偏見が自らの枷となって本日かれこれ1時間。
ここ数日にわたる堂々巡りをまた明日以降に持ち越そうと携帯をベッドサイドに置きかけたとき、急に携帯が着信を告げた。
「うわ!…って、誰?」
番号に心当たりがなく、もちろん登録されているものでもない。
訝る気分のままにしばらく出るのをためらって様子を見るも、鳴り止む気配もない。
「…もしもし」
『か?』
「え?」
諦めて電話に出た途端に聞こえてきたのは、ここ最近で耳に馴染み始めた声で。
『出るのが遅い』
「セフィロス…さん?」
『この番号、登録しておけ』
驚いて状況の整理もままならないままに出した言葉を、いくつか拾って返されたところでも我に返る。
「なんであたしの番号…」
『アンジールから聞いたに決まっている』
「どうしてわざわざ…」
『お前がつまらないことでアンジール経由なんて面倒なことをしているからだ』
「う…」
つい先ほどまで一人悶々と悩んでいたことを読み取ったわけもあるまいに、次々と言質を封じられて返答に窮したの様子が伝わったのだろう。
小さく笑ったセフィロスが幾分口調をやわらげる。
『何か用事があるなら直接ここにかけてくるんだな』
回りくどいのは好きじゃない、と。
ほぼ一方的に話を続けた後、ものの数分であっさりと通話を終わらせてしまった。
普段の自分を保ったままでいられなかったこととか。
そもそも、まともな会話が成立していなかったこととか。
「…ほんっとにもう」
相対してではないにしても、かつてないほどに近くで声を聞いたこととか。
おかげで未だに、おそらくいろんな意味で鼓動が勝手に暴れてしまっていること、とか。
「えらそうにしちゃってさ」
誰が見ているわけでもないのに、いろんな思いを誤魔化すように言い訳がましくブツブツとセフィロスの態度に文句をつけて見せたは。
「登録名、”えらそう魔人”とかにしちゃうからね」
入手したばかりの番号を”セフィロス”の名前と共に、いそいそと驚くべき速さでアドレス帳に登録するのだった。
2015.10.22