いみじくもが予想していたとおり。
職場やアンジールを介して顔を合わせることが幾度か続いたある日。
エントランスからエレベーターに乗り込んだは、一足先に乗り込んでいたらしいセフィロスと顔を合わせ驚いた表情を浮かべたのもつかの間、ふと思い出したように口を開く。
「ねえ」
「なんだ」
「どうにも納得いかないことがあるんですけど」
「なんだ」
行き先のボタンを押して、セフィロスの隣に立ち位置を定める。
他の同乗者がないおかげで、声のボリュームが抑えられることもなく会話は続く。
「初めて会ったときに、ものすごーく機嫌悪そうだったのは、あたしが思わずじろじろ見ちゃったから?」
「見も知らん奴にじろじろ見られたぐらいで、いちいち不機嫌になっていたら身が持たん」
「実際あたし、ものすごい不機嫌になられたんですけど」
「あれは別にそのせいじゃないさ」
「じゃあ一体、なんのせい?」
納得がいかないと言いつつも、もはや特にこだわった様子でもなく。
単なる時間潰しのために口をついて出たとおぼしき言葉に反応して、面白そうな表情を浮かべたままの顔を一瞥したセフィロスは、彼女の言葉を否定するように軽く首を横に振った。
「生憎俺は、宝条とそりが合わなくてな」
「…宝条博士?」
思いもよらない名前だったのだろう。
不思議そうにオウム返しに名前を呟いたは、さらに話を聞くためにセフィロスの顔を眺めたところで訝しげに眉をひそめる。
非常に既視感を覚える表情。
いつかの仏頂面ほどではないにしても、その感情の原点がどこにあるのかをハッキリと知らしめるような、そんな顔。
「あのときも、奴の検査に付き合わされてうんざりしていたところに、お前が行き先なんぞ聞いてくるから」
苛立っていただけだ、と。
まるで答え合わせをしているかのような予想通りの言葉に、は大きくため息をついて肩を落とした。
「まさかの八つ当たりですか…」
「タイミングが悪かったな」
「いきなりイレギュラーな対応されると心臓に悪いんですけど」
「だからこそ印象に残ったとも言えるが」
「………別に嬉しくないです」
確かにあのとき、セフィロスがいたって平静な精神状態であったならば、普通の対応で適当に流されて何事もなく処理されていただけだろう。
つまるところ顔を合わせて言葉を交わすような、今のこの状況はあり得なかったかも知れない、と内心同意していたかどうかは定かではないが。
不自然な沈黙の後、複雑な面持ちのまま負け惜しみのように出されたの言葉に。
セフィロスがしばらく、肩を震わせて笑っていたとかいなかったとか。
2015.9.17