きれい



とある午後。
遠征任務に就いていない人が多いのだろうか。
施設内にソルジャー達の姿が多数見え隠れしている、そんな中。

たまたま通りかかったとおぼしき人物が訓練風景に目を奪われている様子に、レノは一旦立ち止まってひょいと肩をすくめると、さらに距離を縮める。


「ただいま目の保養中につき、いかなる干渉もおことわり」
「まだ何も言ってないしやってもないぞ、と…」


後一歩で隣に並び立つ、というところで機先を制され一瞬鼻白むも自身の希望にそったところで立ち止まり、一瞥すら寄越そうとしないの顔をのぞき込む。


「とかなんとか言いながら、当然みたいに視界遮るのやめてくださーい」
「まあ何だ、ケチケチすんなって」
「そういう問題?」


否応なしに視線を遮られて苦笑いを浮かべたが渋々レノへと顔を向けると、今度はレノが訓練所へと目を向けた。


「で。目の保養って何だよ?」


目に写るのは、ソルジャー達が武器を構えて互いに腕を磨き合う姿。
強いて言うならば、その中にセフィロスの姿があると言うことぐらいか。
とは言え、彼らの本分を考えれば何ら特別感も違和感も感じ取れるものではなく、やはり首を傾げるばかりなのだろう。


「別に大したことじゃないんだけどさ」


にわかにつまらなそうな表情を浮かべたレノを面白そうに見たは、あくまでも私限定の話ねと前置きをして、激しさを増した打ち合いの様子を目で追いながら言葉を続けた。


「刀を振るう姿って、きれいじゃない?」
「ああ…」


最初の内は一対一の繰り返しだった打ち合いも、いつしか一対多数の乱戦模様と様相を変え。
かすかに漏れ聞こえていた高い金属音も、比例してその密度を増していく。


「あえて確認するのも馬鹿馬鹿しいが…、セフィロス、か?」
「そう。…て、なんかその奥歯に物が挟まったような言い回しがちょっと引っかかるんだけど」


いくつもの剣戟をしのいでいたはずの刀がいつの間にか攻勢に転じ、長い刀身が軽やかに弧を描くごとに、一人、また一人と剣を取り落としていく。


「気にすんな。ただちょっと、お前のセフィロスバカも筋金入りだと感心してるだけなんだぞ、と」
「うっわ、ムカツク」


場内で剣を手にしている人影が数えるほどになったのを見届けたところで、レノの冷やかしにが悪態を返しながらも同調するかのように笑った次の瞬間。


「お前達、無駄話ならよそでやれ」
「無駄話ってなにさ」


渦中の人物の登場に、片や口をつぐみ片やさらに言葉を重ねる。

今、訓練を終えたばかりなのだろう。
汗一つかいた様子はないものの、正宗をまだ手に携えたままの状態で戸口に佇んでいた。


「あながち間違ったことは言っていないだろう?」
「あたしに同意を求めないでよ」


セフィロスの声にが表情を緩ませたのはほんの一瞬のことで。


「もう、黙ってればいい感じなのに。台無し!」
「何の話だ」


かわいさ余って憎さ百倍、と言ったところだろうか。


「無駄な話なんでしょ。セフィロスには絶対に教えません」
「子供かお前は」
「きれいとか思って、損した!」
「何のことだかさっぱり分からん」


途端に拗ねてへそを曲げてしまったらしいの心情を慮ったレノは、日常的によく見られる光景がこれから繰り広げられて行くであろう二人の姿に。


「お前らもう、一生やってろよ、と…」


大きなため息を一つついて、舌戦の第二ラウンドに突入したらしい二人を後にしたのだった。