「今さ」
『ああ?』
「無性に逢いたいんだけど」
それまでの会話とは繋がらない言葉を、しばしの沈黙の後口にしたは、呟くと同時に大きく窓を開く。
程なく、室内のそれよりは些か冷たい、湿気を多分に含んだ夜気がどっと部屋中に充満した。
『残念だったな。帰るのは一週間後の話だ』
「そこでざっくり切り捨てちゃうのがいかにもセフィロスだよね」
『よく分かっているじゃないか』
「いばるとこじゃないし」
低く淡々と、しかし内容に反して面白がる響きを隠さないセフィロスの声に、窓枠に寄りかかったは口を尖らせる間もなく吹き出す。
「ねえ」
逢えるはずもないことは百も承知で。
「いっしょに星を見ようよ」
ただ、ふと思い立ったのか。
それとも、寂しさを主張する心をねじ伏せ覆い隠すためなのか。
『星?』
「うん、星」
はしゃぐように跳ね上げられた声音が含む感情の色を、気づかないふりで短く返したセフィロスの声に、同じくも短くどこかほっとしたように重ねた。
『一週間後にな』
「違うって。今見るの」
『…またお前は訳の分からんことを』
「……心底呆れてますって声でしみじみと言うの、やめてくれる?」
『よく分かっているじゃないか』
途中、会話がとぎれがちになるのは、言葉通りに空を眺めているせいだろうか。
『さっきも聞いた言い回し』
「十分だろう?」
地上に溢れる光の洪水に邪魔されながらも、夜空にかすかに明滅し続ける星々を。
『同意するわけないし』
「そうか」
『そうよ』
移動した先。
格段に近く降りそそぐような星を眺めて、セフィロスは気づかれないように小さく笑った。
2008.7.5