嘘の代償



「あ、今度の休みなんだけど」
「ああ?」


業務上、新しい年として一年を数え始める日の朝。
それは食卓を挟み向かい合わせで座ったの口からするりと滑り落ちた。


「あたし、友達と出かけるから」
「奇遇だな。俺もその日は用事がある」


話のついでとばかりに何気なく切り出された内容は、受け取る側にとっても珍しくほぼ同等の価値を持ったものだったようだ。
体勢を変えることなく、また、視線を動かすこともなくセフィロスからあっさりと返された言葉に何故かの方が眉を顰める。


「…そうなの?」
「ああ」
「聞いてないよ?」
「それを言うなら、俺もお前が出かける話は初耳だが」


休みの合う日は一緒に過ごす。

ことさら口に出して取り決めたことではなかったが、暗黙の了解として二人の間に存在する不文律。


十分にその認識を持った上で吐いてみた他愛もない嘘、だったのだろう。
しかし、自分が発したものと同じ匂いを感じ取れない妙に真実味のある返事に、訂正する機会を失ったかのように声のトーンが落ちた。


「……」
「……」


嘘か真か。
そもそも何をどう切り出そうか、と。

逡巡し探る目つきで見合ったのはほんのわずかの間で、すぐにが笑みを浮かべた。


「まあ、それならちょうどよかったね」
「…そうだな」


結局。
同じ不文律を共有するセフィロスもまた、の悪戯を逆手にとって驚き膨れる様を見てやろうと、ささやかなカウンターを返しただけな状況で。
意外にも怒りも拗ねもせず、ただ驚いて言葉少なになってしまった姿に真偽の程を見出せなくなったというちょっとした食い違い。

果たして、互いに打ち明けるタイミングを逸してどこまで嘘を吐き通してしまうのかと。
何事もなかった素振りで朝食を終えてしまった二人は、望む望まざるに関わらず長期戦の構えとなったようだ。


休日という名のタイムリミットまで後5日。
小さな嘘の代償は、釈然としない胸の内と確実に下降の一途を辿るであろう気分が最長5日分。