ポケットの中で微細な振動がわき起こる。
本日何度目のことか、などと。
二桁に近づいた辺りでカウントすることをやめたらしいは、それでもなお無意識のうちに鳴動時間を計っていることに気づいているのだろうか。
「電話、か」
ディスプレイを確認せずとも分かる、ただ一人にのみ設定された着信パターンは長く携帯を震わせた後、プツリと途切れた。
事の発端は取るに足らない意見の衝突。
いつもであれば嫌な気持ちにすらなり得ない些細なことが、今回ばかりは妙なわだかまりをの心に落とす。
いつまでも浮上できない理由が分からない。
分からないから子供じみた八つ当たりをしてしまうかもしれない。
だから話もしたくない、と。
心境がそのまま行動に反映して、電話に出ないまま半日が過ぎてしまった。
突然何も告げずに出て来たから怒ってるかな、とうつむいた先に見える地面に長く伸びた影が滑り込みは小さく息を呑む。
「…ただいま、電話に出ることができません。ピーッと言う…」
「携帯から聞こえてこないアナウンスとはまた斬新だな」
「…どうしてここにいるのよ」
「推察しづらい行動パターンでもなかろう」
「それってあたしが単純ってこと?」
「そう思いたければ、思え」
出会い頭の問答を適当にあしらったセフィロスはに倣って腰を下ろす。
追加された人一人分の重みにベンチがギイとわずかに音を立てた後、再び沈黙を守った。
「なにも、聞かないんだ?」
「お前の駄々は昨日今日始まったことでもないからな」
「なんかむかつく」
「しかもあの行動じゃ構ってくれと言わんばかりだ」
「…そんなことないし」
何を告げるでも、問いかけるでもない。
ただただ穏やかに過ぎる時間に、力が抜けたようにが息をついた。
「今度はさ」
「ああ?」
「今度はちゃんと着信拒否の設定、覚えなきゃ」
「好きにしろ」
その気配が伝わったのだろうか。
放置するだけだ、と憎まれ口に相応の弁を返して立ったセフィロスに、つられて立ち上がったの顔にはもう暗い影はなく。
「冗談なんかじゃないよ?」
「だから、好きにしろと言っているだろう」
「本気じゃないだろうって高を括ってたら痛い目見るから」
「お前がな」
「なんであたしが」
「相手してもらえないと寂しがるのはお前だろう?」
「……そんなことないし」
「ほう」
外出するにはいささか薄着だったためか。
思い出したように体を震わせると、ためらう素振りも見せずに一歩先を行く腕に自分の腕を絡めて歩き出す。
「なに笑ってるの?」
「別に深い意味はないさ」
「嘘!ねえ、教えてよ」
結局、が着信を拒否するという行動に至った理由は明かされないままで、いつか何かのきっかけで同じ事を繰り返さないとも限らない状況下。
今回同様、きっと次も着信拒否設定はされないままだろうと胸の内で呟いたセフィロスは、面白がる気分だけを笑みに変えるのだった。
2008.2.5