初日の出



白むにはまだ早い明け方の空は、重なり合った雲で隙間なく覆い尽くされている。

果たして期待通りの快晴となるのか、それとも雨がもたらされるのか。
にわかには判断をつけられないまま家を出て、まるで人気のない山道を走る一台の車。





隣から聞こえるセフィロスの声と、ラジオから漏れる人の声。


「おい、


カーブが多いという難があるとはいえ、助手席に深く預けた体に直接伝わる自動車特有の心地よい振動。


「…なに…?」
「何、じゃないだろう」


外気と違って適温に設定された車内の空調と、まだまだ暗い外の景色、と。


「お前が見たいと言ったんだぞ」
「…うん、見たい」


基本的欲求の内の一つ、眠りへと誘われる条件が見事に揃っていたらしい。


「見たいけど、眠い…」
「それは俺も同…って、おい」


ハンドルを握っていない方の手で軽く揺さぶられ、一度は鸚鵡返しに相槌を打ったもののどうにも瞼同士が仲良くしたがっていると見える。
すぐにうとうとと船をこぎ始めたにはもしかしたら、状況的につられて眠るわけにはいかないセフィロスの些か不機嫌な声すらも子守歌に聞こえているのかもしれない。


「…ごめん、セフィロス。ついたらちゃんと、起きるから…」


気まぐれか、何か意図があってのことだったのか。
急に朝日を見に行きたいと言い出したのは、助手席で眠るの方だったはず。

すーすーと、小さな寝息を立てて眠る幸せそうな横顔を、憮然とした面持ちで視界に収めたセフィロスはやがて。


「着いても起きないようなら、どうしてくれようか」


少し…否。
かなり意地の悪い笑みを浮かべ、彼女を起こしてしまわない程度にアクセルを踏み込んだ。


幸か不幸か、がその笑顔を目にすることはなかったが。
つい先ほどまでよりもぐんと加速した車は、予定していた時間よりもずっと早く目的地へと辿り着いてしまうだろう。

そして、少しずつ白み始めた空の下。
口約束通りに起きられなかったことを理由にセフィロスの企てが速やかに遂行され、とても落ち着いて日の出を観賞できるような状況ではなくなるであろうことは確か。