「ねえ」
「ああ?」
定められた休みすら満足に取れないような多忙きわまりない日々の後。
忙しさに区切りが付いて、溜まり溜まった代休を少しずつ消化しようと示し合わせて休みを取ったのはつい昨日の話。
天気もいいし家の中でじっとしているのはもったいない、という口実で面倒くさがるセフィロスを連れ出した割には、結局その目的地も屋内だったというなんとも締まらない感が否めないが。
一度外に出てしまえばお互いそんなことはどうでもいいらしい。
ふらりと立ち寄ったシアターで、適当に流行り物と思しき映画のチケットを2枚購入して時間ぎりぎりに滑り込んだ二人の内、唐突に一人が足を止めた。
「どうした?」
さっさと席に行け、という思いも込められていたのだろう。
短く先に声をかけておきながら、ただ黙ってキョロキョロと辺りを見回すばかりのに少し強い調子で問い返したセフィロスだったが、さほど効果は得られなかったようだ。
ややあって、どこか途方に暮れた様子ながらも視線を寄こす気になったのか。
「すごくない?」
「何が」
くるりと振り向いて送られた要領を得ない言葉と意味深な目配せに、促されて見渡した広い広い空間の中。
後にも先にも人影はなく、既に流れ始めた予告の音声をBGMに話すセフィロスとの二人が佇んでいるだけ。
「見事に貸し切りな感じ」
「…ほお」
ある意味壮観とも言えなくはない光景に、さすがのセフィロスも少し驚いたように相づちを打つ。
「なんか不思議。ちょっと得した気分だね」
本当であれば声を潜めなくてはならない場所ではばかることなく会話して、普段と変わらない手順でここにいるというのにまるで自分たちが貸し切っているかのような錯覚は、得したような、腰が落ち着かないようなそんな感覚。
「悪くはないな」
「だね、って」
妙に楽しげな足取りで座席へと向かっていたが、向かった先、何食わぬ顔のまま取り去られた仕切りを眺め不自然に口を噤んだ。
「…ちゃんと映画、見るんだからね?」
「分かっているさ」
「……ほんとかなあ」
「無論」
あえて釘を刺してみせた当たり前の言葉は果たして、相手の理解と了解を得られているのかどうか。
セフィロスの口元に浮かぶ含みのある笑みと、まるで自宅でくつろいでいるかのようにぐっと近くなった距離がすべてを物語っているのかもしれない。
2006.12.16