危機一髪!



「何をしている」


スラムの繁華街、ウォールマーケット。
ここにたくさんの人が集まり活気付いているのはいつものことだが。
ただ、今日はいつもと違う点が一つだけある。


「と言われてもね。あなたたちが見ている通りの状況」


それは。


「不本意ながら絡まれてるとしか言えない気がするのはあたしだけ?」


言葉どおり、非常に不本意な表情を隠しもしないがここにいる、ということだった。


「まあ、俺にもお前が絡まれているようにしか見えないな」
「オレもオレもー」
「でっしょ?」
「ああ」


ビシっと指をさされてセフィロスは不快そうに眉をひそめる。


「そもそも何でがこんなところにいんだよ?」
「ウチの上司のおつかい」
「ルーファウスか」
「そう、面倒なことは『忙しい』の一言ですーぐ人に押し付けるのよね。困ったもんだわ」
「分かる!分かるぜ、のその気持ち!わがままな上司を持った部下は苦労するよな、ホント」
「…何か言ったか?ザックス」
「………イヤ、なんでもないっス」


ほうけるチンピラ、6人。
ざわつくギャラリー、多数。


そういったものを綺麗に無視した3人の会話。


「…って、そうじゃないでしょ!」


その不条理さに一応は気がついたらしいが吠える。


「そうじゃなくてさ」
「なんだ」
「こういう状況下に置かれているオンナノコが望むことはただひとつ!」
「ああ?」
「助けて欲しいんだけど、さすがに」


非常に恨めしげな目を向けられて、セフィロスの顔がようやく得心のいったものになる。
直後、にやりとしか形容できない…実に人の悪い笑みを浮かべた。


「…なによ?」
「さて、どうしたものか」


頭のてっぺんからつま先まで。
値踏みするような視線と口調にがむっとした表情を見せる。


「ちょっと、セフィロス。かわいい彼女が助けを求めているのに、なにを考えることがあるのさ?」
「助けるのは構わないが、見返りは?」
「み、見返り?」
「ああ」


あくまでも余裕な態度と笑みを崩さないセフィロスに圧されて、が心持ちたじろいでいる。


「俺がお前に物を頼むとき、いつも何かと引き換えだったな」
「あーうー…そんなことがあったかし…」
「なかったとは言わさんぞ」


ひとつ、またひとつと挙げられる過去の『見返り』の数々に。


、お前…高いモンばっかじゃねえか」


呆れたようにげんなりとツっこむザックス。


「うっさい、ザックス!この人の頼みごとっていっつもすんごく大変なんだから!」
「それにしてもよお…」
「話を戻すぞ」
「うっ」


元凶となったチンピラの皆さんは忘却の彼方か。
口を挟むに挟めず、手を出すに出せず。
このタイミングで散開しようものなら、逆恨みしたセフィロスに殲滅させられそうでおちおち動くこともできず。
とザックス同様、セフィロスの異様な威圧感にじりじりと後退っている。


「さあ、お前は俺に何をくれる?」


角度をつけてつりあがる口の端が実に怖い。


!いいから何でもやるって言っちまえよ!」
「イヤよ!後でなにされるか分かったものじゃないもん!」
「おっまえ、わがまま!」



右、左、右、左。
飽きもせず眼前で繰り広げられる舌戦に付き合うギャラリーの首は、明日辺り筋肉痛に悩まされるかもしれない。


「待って、セフィロス。今考え中だから!」
「もうずいぶん待った」
「いやいやいや、まだだから!…って、あ!!」


少しずつ間を詰めてきているセフィロスが、また一歩へ近づく。
そしてはというと。
不自然なまでに目をそらそうとしているザックスへと視線を移した。


「ザックス、助けて!」
「ハァ!?何言ってんだよ!?」
「あなたに頼んだ方が一番リスクが少ないのよ!あたしもこの人たちも!」
「バカ、!オレはどうなるんだよ!?」
「ザックスなら大丈夫、頑丈だから」
「邪魔をする気か?ザックス…」


がザックスに頼んだ途端、不機嫌な色を宿したセフィロスが目を眇め剣呑な雰囲気を纏う。


「しないしない、全然しないって!」
「ちょっと逃げる気!?」
「オレ関係ないだろ!…て、大体お前、オレらの力借りるまでもなく強いじゃねーかよ!」
「やめてよ、あたしモンスターとしか戦ったことないのに!力加減が分からなくて、うっかり取り返しのつかない状況になっちゃったらやだもん!!」


その発言に。
今までと同じ方向へじりじりと動いていた、加害者と見せかけて実は被害者かもしれないチンピラ連中の足がぴたりとその場で止まる。
さしずめ、『どっちもあぶねーじゃねーかよ!』といったところだろうか。


「もう、いい」


ゆらりと黒ずくめの長身が揺らいだ直後。
短いうめき声と共に増えていく地に倒れ伏す人の影。


「あちゃー、セフィロスやっちゃったよ」


とりあえずはちゃんと気絶させるだけに止まってはいるようだが。


「やっぱコレは諦めるしかねーんじゃね?」


カリ、と頬の辺りをかきながらザックスはの方へと向き直った。
…はずだったのだが。


「い、いねえ!?て、!」


既にかろうじて姿を確認できる距離まで離れて行っているをザックスが大声で呼び止めようとする。


「ごめんねーザックス。このおつかいの結果報告、早く済まさなきゃいけないの。ということで後はよろしく!」
「よろしくって、オイ!」
「逃がすか…」
「オオオオオオオレは関係…ねー…!」


一陣の黒い風がウォールマーケットから姿を消した後。
近くの医療施設には7人の意識不明者が運び込まれたとか。