帰る場所



銀色の月が冴えた光を放つ。


こんな夜にはいつも、黄色く灯るランプと開け放たれたテラスへの扉。
月とランプの光を受けて、備え付けの椅子に深く体を預け静かに流れる時間を楽しんでいるかのようなの姿。


そして、時が夜半を過ぎる頃。


かすかに草を踏む音。
密やかに充満する血の臭い。
木立から垣間見える銀糸の波。


は、手にしていた本を閉じ静かにテーブルへ置いて来訪者を待つ。


切れ長の瞳に宿る色はなく。
ガラス玉のように、ただ映り込むものを映すだけの代物。
手にした愛刀からは未だ渇かないナニモノかの血が滴り落ち。
おそらくソレは彼が纏う黒装束にも数多のしみを残しているのだろう。


迷うそぶりも見せずセフィロスはの前に立ち止まり、は穏やかにセフィロスを見上げる。


「だいじょうぶ?」
「………ああ」


ややあって返された言葉に、が微笑みながら用意してあったタオルを手に立ち上がった。


「怪我は?」
「…ない」
「今回の任務は大変だった?」
「いや」
「首尾は?」
「愚問だな」


そりゃそうだね、と肩をすくめて、セフィロスの顔についた赤黒いしみを拭い去る。
短いやり取りに普段に交わすようなテンポが戻って。


セフィロスの瞳にも徐々に色が、戻る。


「さーて、あなたが今からすることは」


の声をBGMに、片足をずらして後方で正宗を一薙ぎするセフィロス。
はじけとんだ雫は地に落ちる前に霧散した。


「お風呂でしょ、ご飯でしょ。あ、その前にまず水分補給しなきゃね」


指折り数えるの後をゆったりとした動作で追いかけたセフィロスがおもむろに動きを止める。


…」
「んー?」


柱に手を添えたまま振り向いたと視線を合わせた途端。


「………いや」


何かを言いさして、言いよどむ。
気にするなとばかりに少しだけ背けられた顔をまじまじと眺めていたは、やがて小さく笑い声を上げた。


「はいはい、おかえりなさい」
「…ああ」


銀色の月はやわらかな光を放つ。