ルース魔石鉱に足を踏み入れてしばし、一つめの橋を越えた辺りの敵を一掃し終えた頃。
「全くの素人かと思っていたけど、案外動けるのね」
「まあご覧の通り、毛が生えた程度だけどね」
ほっとしたように、手に持っていた片手剣を鞘に収めたに、傍にいたフランが珍しく意外そうな色を滲ませて話しかける。
「誰かにならったの?」
「うん、ヴァンのお兄さんとパンネロに」
「へえ。囚われの彼女も腕に覚えのある子なの」
「護身用にってたたき込まれた程度のわたしより、ずっとちゃんとしてるよ」
武芸はあんまり性に合わないみたいでさ、と。
すっかりと上がってしまっていた息をやっと落ち着かせつつあるの様子は、彼女の言葉が謙遜ではないことを物語る。
とは言え、混迷極める戦場にあって物陰に隠れているわけでもなく、敵の間を縫うように動き回っている姿をフランが見かけていたのも、また事実で。
「自信がなさそうに言っているわりには、よく動き回っていたようだけど」
「ああ、うん」
重ねて問われて、やっと呼吸を整えたは一つ大きく深呼吸をした後、にこりと笑って肩に背負っていたリュックを足元に下ろす。
随分とふくれあがっているように見えるそれは、最初からこんな感じだっただろうか、と。
フランの頭に浮かんだ疑念は、一瞬にして解消された。
「戦いでは邪魔にならないようにするのが精一杯だけど、こっちはいけるみたい」
「なるほどね」
大きく開けられたリュックの中にはギルや骨くずなどが所狭しと詰め込まれている。
正面切って戦うでもなく、しかし戦場を駆け回っていた理由はこれかと、思わず笑みこぼしたフランはスキルの伝承者とおぼしき人物へと視線を移すと、賑やかな声を聞きつけたのか。
少し離れたところにいたヴァンがこちらへと近づいてきているのが見えた。
「ほら、見てヴァン。お金とかアイテムとかいっぱい」
「何だよ、オレより盗ってんのかよ」
「戦わずに逃げ回ってるから、そういう意味ではあんたより余裕あるのよ」
見せられるままにのぞき込んでいる方の荷物も不自然に膨らんではいるが、量だけを見れば確かにの方が多いようだ。
あからさまに物欲しげな様子に吹き出したは、落としてしまわないようにしっかりとリュックの口を閉じ。
「旅に必要な分は別だけど。もし余るようだったら、ミゲロさんに送ってみんなのために使ってもらおっか」
「みんな、とは?」
「仲良くしてる子たち」
ヴァンのすぐ傍にいてつられて覗いていたバッシュに短く答えながら背負い直すと、軽く肩をすくめる。
「ずっと支えてくれてる人が今もたくさんの子どもたちの面倒みてるから。ちょっとでも足しになるかなってさ」
「逞しいな」
「そりゃね。生きてかなきゃだし」
せっかくの特技、活かさないとね、と。
ポケットから別の小ぶりな麻袋を取り出したところを見ると、どうやら次のところでも精を出すつもりのようだ。
「な、姉」
「なに?」
「オレの飛空挺資金は?」
「…あんたの飛空挺にだけは、当分の間支援したくない」
「何だよそれ。じゃ、荷物持ちも無しな」
「えー、ケチ。みんなのために一肌脱いでよ」
いざというときの荷物持ちを確保しようと再度ヴァンに声をかけたが、まだまだ新しい操縦の記憶にげんなりとした表情を浮かべる。
居合わせたフランとバッシュが笑って成り行きを見守る中、この勝負の行方はいかに。
2016.10.24