様子見



「…あの子の脳天気さは向かうところ敵無しね」


ビュエルバに到着して程なく。
良くも悪くも天然かも知れないヴァンが、持ち前の空気の読めなさをいかんなく発揮して、自身よりさらに幼さが残るラモン少年と連れだって歩き始めた後。


「確かに、思わぬところで心臓に悪いな…」
「言って聞かせて、改まるもんでもないだろうしな」


その背を眺め、心持ち疲れたように肩を落としたの言葉に追随する男性陣の言葉も同様に、呆れを含んでいるようだ。
それぞれに、ハァと大きなため息をついて、既に小さくなり始めたヴァンたちの背中を追って歩き始め。


「先々、こんなことばかりだと思うけど」


フランに呼ばれてバルフレアが離れた後もバッシュと歩調を合わせていたは、隣を一瞥して前方へと視線を戻す。


「ヴァンのこと、どうぞよろしく」
「つまり、自分は面倒を見る気がないと言う予防線かな?」
「年長者さんに譲って差し上げるって言ってるの」
「譲ってもらって嬉しいことでも何でもないような…」
「大丈夫。気のせいよ」


軽口の応酬を重ねた後、前方のヴァンへと視線を固定したままのを見下ろしたバッシュは小さく笑って、すぐに表情を引き締めた。


「きみとこうして話をするのは初めてだな」
「そうね」
「私とは一切、会話する気はないのだと思っていたが」
「まさか。そんな無意味なことをするために、わたしは同行させてもらってる訳じゃないもの」


レックスとは旧知の仲。
本人たちが率先して語らずとも、初見の反応で分からぬものなどいない。
加えてヴァンの話によれば、彼女も彼らとほぼ同じような境遇に在って、家族のように過ごしていたとか。

ならばバッシュへの恨みは第三者に計り知れるものではないだろう、と。
同行者の中で半ば暗黙の了解のように横たわっていた沈黙をはあっさりと否定してみせた。


「大体、あなたとレックスの話はシュトラールの中でヴァンに教えてもらったし」
「きみはそれを信じたのか?」
「……半々、かな」


答えるか、答えまいか。
一瞬、躊躇するように押し黙ったは、しかしすぐに苦笑いを浮かべる。


「正直、わたしはまだ整理がつけられない」


心の内でくすぶり、ともすれば迸ることもあった激情を封じ込め、多少ぎこちなくはあるものの仇敵と信じた相手に普通の態度で接しているヴァンの姿は、確実に彼自身の変化を裏付ける証拠で。
一番の当事者であるヴァンが矛を収めた以上、ただ成り行きを見守るしかないのかも知れない、などと。


?」
「え?あ、ごめん」


つい思案にふけり、知らず押し黙ってしまっていたらしいは呼びかけられて我に返る。


「彼はあなたを信じようとしてるように見える」
「……」


自分のためではなく、おそらくレックスのために。


「だからわたしは、ヴァンの気持ちを信じるよ」
「そうか」


このまま行動を共にしていれば、いつか答えを導き出すことが出来るはず。

そう自分自身を納得させるように、は大きく頷いた。