シュトラール



ラバナスタからビュエルバへの航路の途中。
気候は至って良好で、つつがなく危なげもなく、至って短時間の順調航行かと思われたシュトラール内では何故か。


「うわっ!何で機首がそこまで浮き上がる!?」
「今度はどうやら急降下するらしいわよ」
「乱高下しすぎて酔いそう…」


蜂の巣をつついたような大騒ぎになっていた。


事の始まりはごく微笑ましい話。
空賊に憧れているヴァンが空賊・バルフレアの所有するシュトラールに乗船してしばらくは構造や性能を見たり聞いたりして楽しんでいたのだが。


「ヴァン、本当にきみが操縦していて大丈夫なのか!?」


天井知らずのテンションで操縦したいと言い出したヴァンに、バルフレアがOKを出したことで現在に至ったと言う状況。


「任せとけって。今のでちょっと慣れてきたからさ」


あの根拠のない自信は一体どこからわき出しているのか。
安請け合いにしか聞こえないヴァンの肯定に、本人以外が一抹どころじゃない不安を感じるよりも早く、今度は機体がガクガクと小刻みに震え始めた。


「おいおいおいおい、!」
「わわわっ、なに!?」


立位を保つことが出来ずに床にへたり込んだはもちろんのこと、彼女の肩を掴んで支えたバルフレアにも、常にみる余裕は感じられない。


「酒場で言ってた空賊になりたがってる知人ってのは、もしかしてヴァンのことか?」
「うん。もしかしなくてもヴァンのこと」


とは言え、そんな些細なことを指摘する余裕など誰一人も持ち合わせておらず。
真顔で発せられた質問に、真顔の答えが返されたところで、不審な振動が一時形を潜め。


「どう考えても無理だろ、ありゃ…」
「そ、そんなことないよ……たぶん。…って」


一瞬、本当に体が浮いたのではないかと思わせる強烈な浮力を全員が認識すると同時に、前方の視界が澄み切った雲の上の青空から、誇張ではなく視界ゼロ状態の真っ白な雲の中へと移動した。


「なになになにー!?」
「本当にまずい状態になっていないか?」
「どうやら時間切れのようね」
「ってなことをのんきに言ってる場合か!ヴァン、交代だ」
「えー!もうちょっと…」
「だめ」


操縦席に本来ある人影が腰を落ち着けてしばらくすると機体は体勢を正常に戻し、いつの間にか突き抜けていた雲に再突入した後、眼前に青空が広がる正規の航路に戻っていく。


「ちぇ。やっぱ最初っからうまく動かせるなんて無理か」
「自信満々だったからどこかで触ったことがあるのかと思ってたけど。初めてだったのね…」
「当たり前だろ?でも、さすがにもうちょっと練習しないとダメだな」
「…そうね。もうちょっとなんてちっちゃいこと言わずに、すっごく練習しないと。あんたダメだと思うよ」


誰からともなくこぼれた安堵のため息を意に介した様子もなく呟かれたヴァンの言葉に。
はこの上もなくぐったりした様子で、ヴァンの操縦する飛空挺には二度と乗りたくないなどと、思ったとか思わなかったとか。