郷愁



食糧補給兼、情報収集の目的で訪れた町で。
秋の桜が満開に咲き乱れている中、葉を落としひっそりと佇む木々の合間に見える白い色。
雪の季節にはまだ早いこの時期に似つかわしくない組み合わせに、はそのひとつへと近づいた。


、どうした?」


一行から少し外れたところで立ち止まったに気づいたトッシュは。


「ほら」


近づき指差された先を覗き込んで、驚いたように目を見開く。


白に限りなく近い、薄紅色の花びら。


「桜、かよ?」
「そう!」


紛う方なく桜の花だった。


「すげえな、こんな時期でも花が咲くのか」
「ホント、すごいよね」


素直に感嘆の声を上げるトッシュ同様、サヤは懐かしそうなまなざしを桜へと向ける。


「最近ちょっとあったかかったから。勘違いして咲いちゃったのかも」
「桜にしてみりゃ迷惑な話だな」
「私たちにしてみれば得した気分なんだけどね」
「ちげえねえや」


並び立ち、思いを馳せる先はおそらく同じで。
遠いかの地に咲き乱れる桜と、その地に住まう人たちとの思い出。

もう取り戻せないものと。
まだ取り戻せるかもしれないものが混在する大切な場所。


「いつかまた、スメリアで暮らせる日が来るかな?」
「…さあな」


立ち止まっているのに気づいたアークが、ふたりを呼ぶ声が聞こえる。
名残惜しげに見上げ続けるの手を軽くつかんで歩き出したトッシュが、何かを吹っ切るように首を横に振って。


「暮らせるといいな」
「…だね」


季節外れの桜を後にした。