シルバーノアが次への目的地に到着するまでの間、一行はラウンジにて思い思いの時間を過ごす。
もちろん、も例外ではなく。
船首に近い一角に陣取り、愛刀の手入れにいそしんでいた。
「きれいな刀だねえ」
柄の外された刀身を丁寧に拭っては粉を打つ。
向い側に座り込んでじっとその作業を見守っていたポコが感嘆したように息をついた。
「ホント?ありがと」
食い入るように刀から視線を外さないポコの姿を見ては小さく笑うと、刀身をきらめかせ疵の有無を確認し始める。
「それって、名前あるの?」
「銘?あるよ」
「へえ。どんな?」
一通りの点検を終え濃紺の柄へ刀身を戻し鞘に納めた。
「氷雨」
危ないから抜いちゃダメだよ、と注釈をつけて、はポコの目の前に手入れしたての刀を置く。
「トッシュ兄の紅蓮と同じ刀匠が鍛えた刀なの」
「トッシュの刀と?」
「うん、兄弟刀とかなんとか言ってたような気もするけどよくは知らない。ただ、今となってはコレが親父の形見みたいなものかな」
「そうなんだ…」
「そ」
振り返り、すぐ後ろに座っているトッシュに同意を求めようとしてあきらめる。
どうやらぐっすりお昼寝中だったらしい。
「ポコちゃん、それよりさ」
「なに?」
「さっき戦ってるとき見てて思ったんだけど」
「うん?」
全て片付けて障害物を取り払ったがぐいと身を乗り出すと、思わずポコもつられて耳を傾ける姿勢になる。
は自分の刀同様、ポコのそばに置かれたシンバルへと視線をめぐらせ指でさし示した。
「なんで楽器が武器になるわけ?」
「さあ?ぼくもよく分からない」
派手な音を奏でつつ、攻守共に大活躍なポコの楽器。
はさみ込めばダメージを与えるし、目の前にかざせば剣だろうが斧だろうがなんでも防ぐ盾へと早変わり。
初見のときより気になっていたらしい素朴な疑問は、どうやら本気で分かっていないらしいポコから解答を得ることができず。
「…なにそれ?」
「なんか、ちっちゃい頃から特殊な力があるみたいでさ」
「ま、それはそうなんでしょうけど」
逆に、ふたり揃って首を傾げる。
次々に変わり行くシルバーノアから望む景色をなんとなく眺めて、一緒に悩んでいても仕方がないと感じたのかが再び口を開いた。
「じゃあさ」
「なーに?」
「そもそもなんで楽器で戦おうって発想が出てきたの?」
「ああ、それは…」
苦笑を浮かべたポコは少しだけ言いよどむ。
「アークに初めて会ったときにさ、急にモンスターに襲われて」
「うんうん」
「ぼくが戦えないって言ったら、なんと」
「うん?」
抑揚をつけていったん会話を区切ると、が促すように相槌を打つ。
「アークに『楽器で戦え!』て言われちゃってさー」
「………たいがい無茶言うよね、彼も。で、戦ったの?」
参っちゃうよね〜、と特に困った表情を浮かべるでもなくのほほんと笑うポコには一瞬沈黙を返す。
「うん。それが意外と戦えるらしいことが分かってさ」
「現在に至る、と」
「そうそう」
その後、件のアークに呼び出しをかけられたポコがブリッジへと向かい、残されたは見送りながらも未だ腑に落ちないようで。
「でもやっぱ、普通は楽器で戦おうなんて思わないんじゃ…」
結局のところ。
の疑問は解消されないまま、更なる迷宮入りを果たしたとか。
2005.10.04