最初の時点で気付くべきだったんだ。
この着信が意味するところに。
『…クラ…ド…』
「、なのか?」
『助けて、クラウド!!』
「どうした、何があった!今どこにいるんだ!?」
『……ミッド……北…海に………』
皆まで聞く前に切れた携帯からは無機的な音が流れ続け、リダイヤルしても再び繋がる気配もない。
だとしたら、自分が次に取る行動は一つ。
携帯をポケットに放り込んでアクセルを吹かした。
「ねえ。ちょっとすごすぎない?」
「…何の話だ」
が発した言葉の断片が示す場所へたどり着いた俺を迎えたのは、一刻を争う緊迫した状態でも状況でもなかった。
代わりに視界に映り込んだのは、波打ち際にただ静かに佇む、担がれたことを認識し得るのに十分な後ろ姿。
「具体的な場所は言わなかったのにピンポイントで突き止められるってさ」
「…人で遊ぶのはやめてくれ」
「遊んでない遊んでない」
「俄かには信じがたいな」
砂を踏む音にも振り向かないの隣に並び立ち同じ方向を眺める。
透き通るような青さとはお世辞にも言いがたいが、茫洋たる海が広がっている。
「可愛くないなあ」
「望むところだ」
ゆっくりと引いては寄せる波が、比較的凪いだ印象を与えているようだ。
波打つたびに沈む込んで行くような感覚に、不思議な浮遊感を感じて軽く頭を振った。
「」
「ん?」
「何かあったのか?」
「なにかって?」
「…切羽詰った状態を装って呼びつけられた俺としては理由ぐらい知る権利があると思うが」
「クラウドの言葉の端々にトゲを感じる…」
「それは言った甲斐があるってものだな」
「…珍しく強気…」
惹き付けられて止まないといった様子で、吸い寄せられるように海を眺めていたが軽口と共にようやく身じろいで視線をよこす。
「なんとなく海が見たくてここに来たんだけど」
口調に反した沈みがちな表情はやがて苦味を帯びた笑みを含んだものへと変わり、しばらく経って重い口を開くと。
「いざ来てみたら無性に人恋しくって」
呼んじゃった、と申し訳なげに肩をすくめてみせた。
再び海の向こうを眺め始めたに、本当に呼びたかったのは誰かなどと聞く術もなく、時折吹く強い潮風は遮るものなく全身を煽り過ぎ去っていく。
「騙すような真似してほんとごめん…って、うわ」
吹き去らされて幾分か縮こまった身体は見るからに寒そうに見えて、無言のまま肩を抱き寄せると驚いたように全身が揺れた。
「どうせなら、ついでに遊べるような季節だったら良かったのにな」
見上げた先にある高くなった空は雄弁に秋の気配を物語る。
「クラウド…」
「来年また来ないか?」
「…ここに?」
「どこでも。ただ、今度は遊びに、な」
そう、最初の時点で気付くべきだったんだ。
「海パン姿のクラウドかあ」
星が壊れかけ、生き延びたその日から。
が一人きりでいることを望んで、そのくせ一人きりでいることを怖がることに。
強くあろうと演じ続ける彼女が時折発する、救難信号に。
「なんだか想像もつかないね」
「…行くのやめるか?」
「自分の言葉にはちゃんと責任持たないと」
その信号を、何とか受け止めることができたのかもしれない。
寒さのせいか、それとも他の理由のせいか。
密かに震え続けていた身体が、いつしか落ち着きと温かさを取り戻していた。
2006.09.30