それは、日も落ちかけた夕暮れ時。
「」
「ん?」
おりしも、窓から差し込んでくる光が一帯をオレンジ色に染め上げた頃。
「菓子をくれなきゃイタズラするぞ!」
何故か普段身に付けている赤いコートを脱がないまま真っ黒なマントを身体中に巻きつけたダンテが、さらに何故かご丁寧に、玄関の外から自分がオーナーであるはずの店の中に入り込む。
おそらく窓から抜け出していたのだろう。
いつの間にか、大きく開かれていた部屋の隅に位置する窓を一瞥するとはこともなげに頷いて見せた。
「オーケー、ダンテ」
「…あ?」
「チョコレートにキャンディー、スナックにパイ」
菓子の名を口にすると同時に、テーブルの上に積み上げられていくお菓子の数々。
「さあ、どれでもお好きなものをどうぞ?」
口を差し挟む隙もなく、些か雰囲気に呑まれた様相で立ち尽くしていたダンテがようやく身じろいだのは、が積み上げた菓子を両手で押し動かしたときだった。
「…俺の行動を予測してたな…」
「備えあれば憂いなし、ってね」
「つまらねえ…」
「そうそう思い通りに事は運ばないってことよ」
方や残念でした、と満足げにほくそ笑み、方や自身の言葉どおり、心底つまらなさそうに空いた椅子に座り込む。
心なしか、バリバリと菓子の包みを破る音にも乱雑な、ふて腐れたような色が混じっているかのようだ。
「やっぱ、これじゃつまらねえだろ」
「なにがよ?」
「ありきたりに『菓子』ってのがまずかったんだな」
「だから、なにが?」
「だから」
ややあって、山となっていたはずの菓子が紙くずの山と変わり果て、ダンテの口に言葉が戻り始める。
怪訝な顔で説明を求めるに返される答えはなく、勢い込んで立ち上がる姿を追ってつられるように目を上げた。
「お前くれなきゃイタズラするぜ?」
一瞬の間と、絶句。
にやりと笑うその顔に、本気の色でも見て取ったのか。
「…それ、どっち道イタズラする気満々ってことじゃないの?」
「そうとも言うかもな」
「曖昧にできる要素なんて、なに一つないと思うんだけど」
「そうかもな」
「…信じられない」
ごく自然の成り行きで合わさった視線は見る間に渋いものへと変わっていく。
「で、どうする?」
「さあ…どうしようかな」
先ほどまでとはまるで変わってしまったそれぞれのスタンスに、は含み笑いを浮かべたままわざとらしく肩をすくめて見せた。
Trick or treat.
さあ、選ぶのはどっち?
2006.10.31