靴音を小さく響かせて辿る家路の途中。
道を照らすライトの光を十分に含んで闇夜にぼうっと浮かび上がった街路樹に、ふと目を止めたは次いで足の動きをも止めた。


「わあ…」


まだ冷たさを残す夜風が吹いては凪いでをくり返し。
その中心で伏し目がちに佇む姿はまるで、桜吹雪に溶け込むのを楽しんでいるように見える。


「綺麗なものね」


宙に向かって差し出した手を難なくすり抜けていく花びらに、小さく微笑んだは木に紛れて延びる影を眺めて更に口の端を吊り上げた。


「ねえ、ダンテ?」


根元付近で、赤いコートの裾が時折見え隠れしてはその存在を主張し。


「…何だよ、ばれてたのか」
「あらあら」


声に呼応するかのように木の裏から土を踏む音が響く。


「わざと見つかるような場所に立ってた割には、随分とお粗末な言い草」
「いつまでも俺を隠しとくなんざ勿体ねえだろ?」
「なーに言ってんだか…」


よく言うわ、と呆れた口調のままは木へと近づいて背中を預けた。


「で。何しに来たの?」
「ああ?」


低く笑い続けるダンテの声と途切れがちな会話の合間に、再び手を伸ばして遊ぶ。


「出かけてからこっち、ずっとついてきてたでしょ」


やっとのことで上手く掬い取れた花びらは、時を狙い済ましていたかのように背後から吹き飛ばされてひらひらと地へ落ちていく。

ささやかな成功に喜んだ直後の思いも寄らぬ展開にしばしの絶句。


「なにすんのよ!?」


次いで沸き起こる感情は想像に難くなく、憤慨もあらわにはダンテを振り仰いだ。


にくっついてりゃ悪魔の一つや二つも出てくると思ってたんだが」
「…人をトラブルメーカーみたいに言うの、やめてくれる?」
「ただの情報収集だったとはな。ついてきて損したぜ」
「………退屈しのぎなら他所でやんなさいよ」


予想外の距離、だったのだろうか。
げっ、とばかりに一瞬引きかけた身体はそれ以上の動きを阻まれさして変わらぬ距離を保つ。


覆いかぶさるようなダンテの体勢に、の視界は鮮やかな赤と薄紅に染まった。


「わざわざ他所でやるまでもねえな」


暗闇は桜に緩和され。
緩く放たれた花明かりはただ一つの原色をひときわ赤く際立たせる。


「退屈しのぎ、付き合うだろ?」
「そんな口実で誘われても嬉しくないって知ってる?」
「んじゃ、今からデートしようぜ?」
「…どうしようかなあ」
「OK。とりあえずどっか飲みにでも行くか」
「ちょっと!あたし付き合うなんて言ってないよ!?」


心持ち悔しそうに悪態をつきながらも、思わずといった様子でが息を呑んだのを了承と受け取ったのか。
ダンテは会心の笑みを浮かべて辿ってきたはずの道を連れ立って戻っていった。