今日も明日も明後日も



「彼女、彼女!今、ウチで野菜買ってってくれたらオマケつけるよ!」


天然記念物並みの長寿者はまあ別格として。
構成要因が育ち盛りに働き盛りと、食料品の消費量が著しく高い一行のための買出し途中。
店先に並べられた数々の食材の品定めをしていたは、声をかけられて顔を上げる。


「ホント?じゃあ…これください」


元より買う予定でいたものを指さし告げると、店主は手際よくその品を袋へとつめた。


「へい毎度!んじゃオマケはそっちのニイさんに渡しとこうかね」
「おうよ」


荷物持ち要員と自ら称し。
半ば無理矢理にくっついてきていたトッシュが、受け取ったものを小脇に抱えて持ちづらそうに身体を揺する。


「おじさん、ホントにもらっていいの?」


店主からトッシュへ。
一部始終を見守っていたが確認するように問いかけた。

それもそのはず。
『オマケ』と証するにはいささか無理のある大きさに加えて、値段の方も買い入れたものよりずっと上回っていそうな代物だ。


「気にすんなって、いいってことよ!」
「うわー、ありがとう!」


ひたすら元気な店主に礼をのべて後にする頃にはようやくトッシュも安定した抱え方を探し当てることができたらしく。


「太っ腹っつーのかなんなのか…」
「でもすごいよね。こんなでかいの初めて見たよ」
「まあな。あんまり見れるモンでもねえよな」


物珍しげな二人の視線はもらったばかりの『オマケ』、すなわち大きなカボチャへと注がれた。


「なんにせよ、とっとと買い出し済ませて帰ろうぜ。さすがにこれを持ったままウロウロすんのはご免だぜ」


トッシュの場合、ヘタの部分を上手く掴んでいるから片腕で事足りているものの、が抱えようものなら両手を回してかつかつぐらいの大きさ。
行き交う人もやはり珍しいらしく、周囲には好奇の視線や笑いの気配が充満している。


「そうだね」


否定する理由などあるはずもなく、こくりと頷いて足早に次の目的地へと急いだ。




「なるほどね。事情はよく分かったよ」


所変わって、シルバーノアとアーク一行が一時的に身を隠している野営地。


「この一番大きな分に関しては、ね」


帰還したたちの大量の荷物を前に、平静を装いながらもその顔には引きつった笑みが浮かんでいる。

それもそのはず。
アークの足元には、あの大きなカボチャを取り囲むようにして大小様々なカボチャが無造作に転がされていた。


「なんかその後、行く先々でもらったっていうか押し付けられたっていうか…」


持ちきれないからと断っても遠慮と解釈され、断りの言葉を述べるたびにむしろ躍起になって押し付けられてしまったことを思い出したのか。
は疲れたような微笑で言葉尻を濁す。


「どうして?」
「なんか祭りらしいぜ?」
「どんな?」
「詳しくは知らねえ」
「………よし」


カボチャ感謝祭だろ、などと安直かつ適当なことを言ってのけたトッシュの横でおもむろにが気合いを入れた。


「とにかく!傷んじゃう前にありがたくみんなで食べようね!」
「傷む前って…どのくらい?」
「さあ。保存状況によるとは思うけど、一ヶ月はいけるんじゃない?」
「…つーことは」


百戦錬磨の強者たちが顔を見合わせ、カボチャを見て、を見る。
願わくは自分の思っていることが外れて欲しいという一縷の望みをかけて。
だが。


「そ。これが全部きれいになくなるまで、毎日カボチャ料理」
「…本気かよ?」
「本気本気、すっごい本気」


決意も新たに力強くそう告げたの姿に、当面の食事メニューが彼女の中で不動のものとなったことを知る。


「ちょっと待て、!んなモン毎日食ってたら身体が黄色くなっちまうぞ!?」
「なりません、ありえません」
「金かけて手に入れたわけじゃねえんだし、そこまで意地になって食うことねえだろ!?」
「食べ物を粗末にするわけには行かないでしょ」


諦め悪く、しつこくに食い下がってはすげなくあしらわれているトッシュを他所に。


「毎日、カボチャかあ…」


精霊の加護を受けた勇者は、元凶となった名も知れぬ祭りに。
心持ち恨みがましくひっそりとため息をついた。