真似事



とっぷりと日も暮れて、巷の大半は団欒の時間帯。


「はいはい、ちょっと待ってよ!」


遠慮もなくドンドンとドアを叩く音に、張り合うかのように大声を上げたが鍵を開けて顔を覗かせると。


「Trick or treat!!」


予測通りの顔ぶれと、予測していなかったクラッカー音。
微量の火薬の臭いと自分めがけて飛んできた色とりどりの紙テープや紙ふぶきに一瞬目を丸くしたは。


「そんなもん人に向けて使うな!」


ためらうことなくロッズの頭上にゲンコツを落とした。


「いっててて…今、、本気で殴った…」
「当たり前でしょ!この状況下でへらへらしてられる方がおかしいっての」


じんわりと眦に涙を浮かべて頭を抱え込むロッズを、指差し笑う銀髪が一名とただ見てるだけの銀髪が一名。


「それにしてもさ」


いつもと変わらないいでたちながら、黒装束に身を固めたレザーのコート姿はどこか時節にそぐっているようで。
妙にしみじみと季節感を覚えつつ、はドアに身体を預けたままふとつぶやいた。


「どうしてあなたたちがハロウィンのことなんか、知ってるわけ?」
「ハロウィンって?」
「……」


しらばっくれている風でもなく、ごく自然に首をかしげているヤズーに返す言葉を持たず。
無言のまま視線と転じると同じような仕草のカダージュがの視界に入る。


「意味なんて知らないけど」
「その辺の子供たちがやってて面白そうだったからさ」
「ちょっと真似してみただけだよなあ?」
「…さようで」


三人三様。
しかし意図するところはまったく同じようで、口先をそろえて説明された事情に、は取り立てて驚いた様子をみせない。


「すごーく簡単に結論を言うとね。その掛け声で入ってきた子たちになにかあげると、子供たちはすぐに帰ってくれるわけ」
「ふーん…?」


にこやかに簡単すぎる説明を終えたは、ごそごそとポケットを探って出てきたものを一つずつ放り渡し。
シンプルな包装のキャンディーが彼らの手に行き渡ったのを確認すると速やかに右手を顔の辺りまで上げた。


「じゃ、そういうことで。いい夜を」


バタン。


一連の動作を予め想定していたかのような隙のない動きに、思わず立ち尽くす三人の鼻先でドアが閉められる。


「……?」


しばしの思案。


「………」


しばしの沈黙。


「……!」


そして。


「えー!そんなんないだろ!僕たち門前払いされに来たんじゃないよ!!」
ー!」
「開けろー、入れろー!」


バンバンバンバンバン。


ひと時の静けさなどなかったかのような慌てぶりに、ドア一枚隔てた先でこらえきれずにが吹き出す。


「なんてね」


先ほどとは違い、今度はドアが大きく開かれ。


「どうせそろそろ来る頃だろうと思って準備はしてたのよ」


招き入れるように奥を指差す。
つられてカダージュたちが覗き込んだ先には、テーブルの上に用意された食事や菓子と、普段のの部屋では見たことのないちょっとした飾り付け。


「…これ、何?」
「せっかくだし。ささやかながらパーティーでも、って思ってさ」
「つまり?」


今ひとつピンと来ていない三人を部屋の中へ入れ終えたが優しく微笑む。


「みんなで楽しく遊びましょ、ってこと」


たまにはちょっとだけ、家族の真似事でも。