「ストライフ・デリバリーサービスって。そんなにやる気ない感じでいいの?」
「…何の話だ」
招き入れられたと同時に投げかけられた言葉は、久しぶりに会った知己への挨拶などではなく。
クラウドの無表情にはたちまちの内にひびが入る。
「遅かったわね、ってこと」
「そうか?」
「そうよ。だって」
珍しい人物からのアクセスに、かなりの速度でミッドガルへ取って返してきた当人としては。
曖昧に頷いてその場をやり過ごすには納得できない部分の比重が高かったらしく、眉間にしわを寄せ密かに時間の逆算を繰り返している。
「クリスマス、終わっちゃったじゃない」
「…電話を受けた時点ですでにそれは終わってたように記憶しているが」
「あら、そうだったかしら?」
「証拠が必要なら着信履歴を見せようか?」
「結構。まあ、言葉のあやってもんよ」
ひたすらに我が道を行くの態度は幾分か緊張気味だったクラウドを和ませ、その変化を待ち望んでいたかのように昔と変わらない笑顔がこぼれ落ちた。
「元気そうね」
「もな」
「おかげさまで。毎日忙しくやってるわ」
「神羅として、か?」
「もちろん」
他に行くあてなんてないしね、などと嘯きながら強い芳香が立ち上るマグカップを手渡す。
一人は窓の外を穏やかに眺め、一人は手の内に納まったコーヒーに映る自分の顔を眺めて。
ただ佇んだままで、静かに時が過ぎる。
「あなたが開業したこと、レノから聞いてさ」
「…ああ」
ポツリと呟かれた言葉に、奇妙な腐れ縁で繋がっている赤髪の人物を思い起こしたのか。
複雑な表情で先を促す。
「ご無沙汰だったし、どんな様子か気になって。会いたいなって」
「俺も、ずっと気になってた」
「そう?ありがとう」
「…いや」
向けられた笑顔からは言葉どおりの嬉しそうな感情しか読み取れないと言うのに、クラウドはふと顔を曇らせた。
「本当は…あんたの前に姿を現していいものかどうか。随分悩んだんだけど、な」
「…クラウド…」
「留守電に入ってたのメッセージ聞いたら、どうしても我慢できなくなって」
神羅とセフィロスと抵抗組織と。
望む望まざるに関わらず渦中の人物となってしまったことで、彼はどれほどの闇をその心の内に宿してしまっているのか。
一度も視線を合わせようとせず、困ったようなの姿にも気づかない。
「俺はにとって、憎むべき相手でしかないから…」
「それは違うよ」
まるで自虐を繰り返すようなクラウドの言葉を、ははっきりと否定して。
「彼のことは…正直、まだ上手く整理を付けられてないんだけど。でも、あたしがクラウドを恨むなんてことはないよ」
「……」
「気にするな、って言っても無理なのかもしれないけど。あなたが一人で引け目を感じることでもないんじゃない?」
コトリ、と空になったカップを寄りかかっていた棚に置くと、すっかり冷え切ってしまったコーヒーとにらめっこを続けているクラウドを覗き込んだ。
「俺は…」
「ん?」
揺らぐ双眸は未だ翳りを帯びたまま。
「俺は、ここに来てもいいのか…?」
「クラウドは、あたしから旧知の友人を減らしたいわけ?」
「いや、そんなことは…」
「ないよね、うんうん」
しかし、揺らぎながらもようやく合わされた視線はクラウドが一歩前進したことを告げる。
「今度はちゃんと」
「うん?」
「今度からはちゃんと、会いに来るよ」
決意も新たに、といった面持ちで頷く姿に、はそっと目を細めた。
「無理はしないでよ?クラウドが仕事以外じゃ捉まらないって話、多方面からよく聞いて知ってるんだから」
「ああ、それなら大丈夫」
「?」
「ちゃんと、配達するものがあるから」
くすくすと茶化す口調に対して、あくまでも生真面目な態度で。
「…あらま」
すっと目の前に差し出されたものをマジマジと眺め、は心底驚いたように声を漏らす。
「あなたにこんな甲斐性があったなんて…。ねえ、サンタさん?」
手に持った本人を思わせるような黄色の花を。
軽口を叩きながら受け取ると、は大事そうに胸元へと引き寄せた。
2005.12.26