Happy Christmas



外の様子がつぶさに見て取れる窓際の席。
きらめくイルミネーションと行き交う人々の幸せそうな雰囲気を、はまるで他人事のように頬杖をついたまま眺めている。

テーブルの上に開いたまま置かれた携帯が鳴動を始め、指先でつつくように押されたボタンに呼応してディスプレイに文字が表示された。


『今から行く』


件名のない用件だけのとても短い文章。


「今から、ね」


ようやく進展が見られた文面には小さくため息をつく。

了解、と。
既に何度も打ってきた言葉を再び送り返して、待ち受けに刻まれた時間を拒むように目を閉じた。


待ち合わせの時刻より、1時間は優に過ぎてしまっている。

が到着したとほぼ同時に出されたお冷の氷は跡形もなく溶け去り、注文したコーヒーも冷め切って底の方にその形跡を残すばかり。
同じ時間帯に入ってきた女性客たちは当の昔に連れ合い店を出て、別の客が入ってきては同じことのくり返し。


「あーあ…」


最後にメールを受けてから10分ぐらいが経過しただろうか。

見慣れた人影が珍しく急いだ様子で駆け込んでくる姿を、視界に納めたが伝票を掴んで立ち上がった。
カウンターの前で読み上げられた金額を取り出しかけた手ごと財布を掴まれ。


「俺が」


上がった息を誤魔化すように低く抑えられた声が有無を言わさずの行動を制す。

無言のまま。
引きずり引きずられるようにして店を後にした二人がようやく口を開いたのは、飾り立てられた大きなツリーに差し掛かった頃。


「任務が、長引いた」
「……」
「もっと早く終われる予定だったんだが…」
「……」
「…


そっぽを向いたままだったが、乞われるような響きでもって名を呼ばれようやくセフィロスへと顔を向ける。


「理由なんて、聞かなくても分かってるよ」


ひそめられた眉根と握り返そうともしない手。
怒りが勝っているのか、はたまた悲しさが勝っているのか。
揺らぎかけた彼女の目からは読み取れず、立ち止まって言葉の先を待つ。


「あたしが聞きたいのはそんな言葉じゃない」


ため息混じりに吐き出された声は細く。
ざわついた周囲へ紛れて消える前に、彼女の態度が意味するところへ行き当たったセフィロスは軽く目を伏せた。


「悪かった」
「…気づくの、遅いよ」
「すまない」
「しょーがないから許してあげる」


安堵の色が濃く現れた吐息は、果たしてどちらのものだったか。
ややあって、こわばった顔が普段のやわらかさを取り戻し、二人の間に漂うぎこちない空気が消え去る。


「店は?」
「迷惑かけるから、もう断りの電話入れちゃった」
「…そうか」


掴まれた手をこれ見よがしに振り解き、咎めるようなセフィロスの視線ににやりと笑い返すとは手持ち無沙汰そうな腕にしっかりとしがみつく。


「うん。だからどこか簡単なところで済まそう?」
「そうだな」


失われた時間の空白を埋めるかのように縮められた距離は。


「お前はどこがいいんだ?」
「んー、そうねえ」


舞い落ち始めた雪すら立ち入る隙間もない。


「じゃ、屋台」
「………その落差はなんなんだ」
「今からそれらしいところ行ったって、どこもいっぱいよ、きっと」
「それはそうだろうが…」


それにね、と不満そうな言葉を制し、言葉同様に不本意そうな表情を覗き込む。


「どこで食べるとか、あんまり関係ないかなって思うし」
「…そうか」
「そうだよ」
「そう、だな」


吹き付ける風に小さく身体を震わせたをかばうように歩き出したセフィロスが頷いて身をかがめ。


「適当にメシ食ってのんびりするか」
「うん」


冷えた唇にキスを落とすと、それは微笑んだ形のまま受け止められて。
重ねられてなお、音もなく紡がれた言葉に自然とセフィロスの相好も崩れていく。


「俺も、だ」


等しく、幸せなひと時を。


─ Happy Merry Christmas ─