「あ、そこ邪魔」
鷹揚な態度でソファに腰掛けたセフィロスに、かけられた口調は実に素っ気無いもので。
が、しかし。
自分を見下ろす彼女の姿に喉元まで出かかった文句は形を成すことなく消え、無言のまま部屋の隅へと移動する。
「ごめん、そこも邪魔」
パタパタと部屋の中の行き来を繰り返すの手には、モップだのはたきだのといった掃除用具が状況に応じて握られており、この年の瀬に何をしているのかは一目瞭然だったのだろう。
物申すこともできず、追い立てられるようにその居場所を変え、落ち着こうとするたびにまた移動する。
「セフィロス、そこもダメ」
いくつかの変遷の末にたどり着いたのはダイニングのテーブルに備え付けられたの椅子。
その椅子へ座り込んだとほぼ同時に投げかけられた言葉は、これまで大人しく従っていたセフィロスが恨めしそうな視線を向けるのに十分なものだったらしい。
「じゃあ、どこにいろと言うんだ」
「んー?一番無難なのはやっぱ」
苛立った声に動じることなく考え込んだは、悪びれた様子もなく一点を指し示す。
指先につられて視線を送った先は。
「外?」
「…このクソ寒い中、一人で出かけろと?」
「しょうがないじゃない。大掃除の邪魔なんだもの」
先ほどから、稀に見る発生率の高さで繰り返される否定的な言葉の数々に。
「掃除なんて、普段からやっているんだろうが」
元より不満を色濃く滲ませたセフィロスの顔がますます苦いものへと変わっていく。
「なのに、なんでそこまで気合入れてする必要があるのかって?」
「ああ」
言葉尻を奪い取るようにしたが手に持っていたはたきを握り締め、にんまりと口の端を吊り上げた。
「なら、証拠を見せてあげる!」
一回、二回、三回と。
はたかれる毎にセフィロスの背後にある食器棚から積もり積もった埃が舞い上がっては、ゆっくりと広がり落ちる。
「ね?意外とあるもんでしょ」
「……そのようだな」
咳一回、盛大なくしゃみは二回。
の分かりやすくもいささかはた迷惑な行動は、相応の被害をもたらした。
「そういうわけなんで、大掃除をしないわけにはいかないんだけど」
「…なんだ」
「セフィロスが手伝ってくれると、あたしも時間ができるし邪魔邪魔言わなくて済むんだけどなあ」
片手にははたきを、片手にはわざわざ取りに行ってきた車のキーをちらつかせて二択を迫る。
中か外か
一人でいるか二人一緒か。
究極と言うにはどうにも締まらない内容のその選択に、時間をかけるまでもないといった様子で掃除用具を受け取ったセフィロスに。
「頑張って早く終わらせようね」
「。ほどほどで終わらせろよ?」
「分かってるって」
「…だといいがな」
は至極満足げに頷いて見せたのだった。
2005.12.29