昼食時。
一足早く食事を摂っていたの元へ、レノとルードが顔を覗かせたのは摂り始めてからさほど時間も経たない頃合で。
テーブルの隅に陣取っていたの向かいと隣にそれぞれ席を定め腰を落ち着けた。
片やがつがつと、片や黙々と。
あっという間に持ってきたものを平らげて手持ち無沙汰になってきた、そんな折の話。
「おっ」
「ん?」
少し遅れて食事を終えたはお茶に手を伸ばし、次いで嬉しそうな声を上げたレノへと目を向ける。
「赤い糸」
「はあ?」
「発見だぞ、と」
「はあ…」
突然また何を言い出したのかと、ルードと顔を見合わせ投げやりな口調で相槌を打つ。
「ほれ」
の肩口。
背中に近い方から何かを摘み取ったレノがそのまま手をかざして見せたもの。
「なーんだ」
確かに赤く。
赤くて細長い。
「なにかと思ったら。レノの髪の毛じゃない」
それは、赤い糸と称し摘み上げた本人の毛髪だった。
「それに繋がってるわけじゃなし。そういうのは赤い糸なんて言えないでしょ」
ひらひらと目の前にちらつかされた毛を一瞥したは興味をなくしたかのように茶をすすり、ルードは無言のままサングラスの奥の目を閉じて仮眠の体勢に入る。
二人にまるで取り合ってもらえなかったレノはというと…当然と言えば当然か。
「、それは浅慮と言うものだぞ」
「なにがよ?」
不満げにテーブルを一つ叩くと、摘んでいた髪を更に高く掲げ誇示して見せた。
「これはオレの髪だ」
「そうね」
「そしてこれはお前についていた」
「そのようね」
お茶請けにあらかじめ用意しておいたのか。
どこからともなくチョコレートを取り出したはルードの前に一つ置き、なにやら熱弁を振るっているレノに一つ放り投げると、包みを開いて自分の口にも放り込む。
「つまりは、どういうことだと思う?」
「知らないわよ」
「…、ノリが悪いぞ、と」
「あーはいはい、どういうことなのか是非ともあたしに教えてくださいませ」
おおよそ人の話をきちんと聞いている感じではないが。
とりあえずは得られた反応に釈然としないながらもレノが気を取り直したように口を開き。
「つまりだ。オレの髪がお前についてたって事は、オレとお前が赤い糸で繋がれてるって事に…」
「なりません」
タイミングを見計らったが速やかに撃沈した。
「大体、赤い糸って小指と小指に繋がってるってんじゃないの?」
「そんな事なら心配要らないぞ、と」
「うん?」
依然、お茶に添えられたままの手から小指を引っ張り出したレノは実に手際よく髪の毛を巻きつける。
端と端とで繋がれた赤。
「これで問題は解決」
「…問答無用で人の指に結びつけるの、やめてくれる?」
「許可を得ればいいのか?」
二人の間でぴんと張られたものを眺めて。
繋がった先、あからさまにからかって楽しんでいる表情を見て取り、は大きく息を吐き出した。
「そうじゃないでしょ」
ぶんぶんと乱雑に振られた手からなかなか離れることなく。
外そうとする側、外れるのを阻止しようとする側とで、手首を鷲掴み繰り広げられる攻防は何故か長期戦の構えとなる。
暴れては疲れて動きを止め、少しの休憩を得ては再び暴れだす。
「、いい加減諦めろっての」
「いやよ。髪の毛なんか結び付けられて喜べるわけないでしょ」
「オレの髪だぞ?」
「誰のでも一緒!」
本当に仮眠に入ってしまったルードを他所に、食後の運動よろしく小競り合いを幾度となくくり返し。
「…随分と楽しそうだな、お前たち」
「そりゃあもう。楽しすぎて涙が出そうだわ!………って、うわ…」
「…出た!…ぞ、と」
趣旨はどうあれ、異常接近を果たしていた二人の間に。
ひどく不機嫌な面持ちで見下ろし佇んでいるセフィロスの姿を視界に納め、凍りついたようにその動きを止める。
「…楽しいか、そうか」
「ちょっと、セフィロス…?」
「それは何よりだ」
「目、据わってるぞ、と…」
「では、邪魔者は退散するとしようか」
「もしもーし、セフィロスさーん?」
等しく底冷えするような鋭い眼差しで睨みつけられ、不穏な空気を纏った背中をただただ呆然と見送る。
「ちょっと、レノ!今日家に帰れなかったらどうしてくれるのよ!?」
「ウチに来れば問題解決」
「するか!」
呪縛から解き放たれ、すぐさま再開された舌戦からは特に懲りた様子を垣間見せることもなく。
『赤い糸』で結ばれた二人の不毛なやり取りは午後の業務開始時間が来るまで延々と続けられた。
2005.12.17